企業CMアニメ異例の大ヒット! 『おにくだいすき!ゼウシくん』 ヒットの軌跡をたどる。

2014.11.05

JA全農の企業CMアニメ『おにくだいすき!ゼウシくん』をご存知だろうか。2014年1月6日より、フジテレビ系列『ジェネレーション天国』の提供CMとして、週1回90秒、全12回オンエア。初回放映時より「放送事故ではないか」「かわいい」「全農が攻めている」「声優が豪華すぎる」と話題になり、公式サイトはアクセス集中のためサーバーダウン。最終回を迎えたあとも主題歌のCD発売、カラオケ配信など話題はつきず、来たる11月29日からは第2期がスタートする。企業CMでありながら早くも「伝説のアニメ」と称される『ゼウシくん』はどのように生まれ、なぜ伝説になったのか。第2期を目前にしたいま、制作担当者たちの話を聞きながら、成功のプロセスを検証しよう。


 

■アニメCMは予想外の提案だった

 

そもそもJA全農(以下全農)は、どのような意図をもってこのプロモーションを仕掛けたのだろうか。担当者に話を聞くと、意外なことに、初めからアニメCMを考えていたわけではなかったという。

 

「ここ数年の畜産業界は、飼料の価格高騰をうけ、非常に厳しい状況にありました。そこで、広告代理店さんに、『電波媒体を活用した国産農畜産物の消費拡大施策』(TV等をつかった国産の肉や野菜の消費拡大施策)の提案を依頼したんです。農家さんを応援するため、そしてみなさんにもっと国産のお肉や野菜を食べていただけるよう、プロモーション的な短いテレビ番組をつくるイメージでした」(全農担当)

 

昨今、いわゆるミニ番組、5分番組に力を入れている企業は多い。一社提供であれば自分たちのメッセージも伝えやすいからだ。

 

ところが上がってきた提案は、予想に反してCMの企画だった。しかもシュールなアニメーション企画である。社内には、担当者を含めアニメに詳しい職員はいなかった。普段の業務はあくまでも畜産事業であり、広告媒体やSNSなどのネットメディアに明るいわけでもない。『ゼウシくん』の企画は、まったく未知の領域だったのだ。

 

「斬新なアイディアだけに、正直社内でも紆余曲折はありました(笑)。でも結果的には、プロにお任せするのが一番だろうということで、ほぼ提案いただいた内容になりましたね。提案の際に、ゼウシくんのプロトタイプがアニメーションでほとんど出来上がっていたのも大きいです。具体的にイメージしやすかったので、やってみよう、という流れになったのだと思います」(全農担当)

 

 

 

■「肉キャラよろしく!」


一般的にアニメーション制作は時間がかかる。しかし提案の段階でプロトタイプができていたのは、コンテンツ制作を請け負った株式会社ディー・エル・イー(以下DLE)の手法によるところが大きい。『秘密結社鷹の爪』で知られるDLEは、デジタルコンテンツに特化したflashムービー制作を得意としている。そのため、企画の早い段階でデモ版を制作することができたのだ。

 

しかしDLEは、その独特な作風から「アニメ界の壊し屋」の異名をとる制作集団だ。企画当初から、全農のイメージを打ち破るような、過激さを欲していたのだろうか。企画プロデューサーでもある広告代理店の担当者にも話を聞いてみたい。

 

「いえいえ(笑)。でも、何度も繰り返しオンエアするイメージCMと違って、週1度だけ、90秒という短い時間です。視聴者の注意を引くにはインパクトがなければ視聴者の印象には残らないのです。そこで、シュールでスパイスの効いた作風に定評のあるDLEさんにお願いすることにしました」

 

キャラクターデザインの担当であり、本コンテンツの総監督でもあるDLEの大宮一仁氏は、当時をこう振り返る。

 

「社内会議で、いきなり『肉キャラよろしく!』と言われたんですよ。DLEの得意とするシュールさと斬新さを肉キャラに注ぎ込めと。おそらく子ども向けの丸っこい絵ばかり描いていたので私めが抜擢されたのでしょうが、肉キャラ=ゼウシくんのキャラクターに固まるまでにはかなり悩みましたね。いわゆるマンガ肉に手足をつけたキャラとか、パッケージ肉にイケメンの顔をのせたキャラを考えたときは、制作チームを当惑させました」(大宮氏)

 

さすがに、すんなりアイディアが出たわけではなかったようだ。しかしファミリーものにするという方向性が固まってからは、スムーズにキャラクターも決まっていった。

 

 

 

「お肉以外にも野菜、牛乳、卵とネタは豊富にあったおかげで、賑やかなシリーズになって満足しています。CMの時間内でネタをまとめるには、結構頭をしぼりましたが、制限がある分、インパクト勝負でつらぬけたのはよかったですね」(大宮氏)

 

■CMはフック。ネットで拡散させるのがねらい

 

そもそも、なぜショートアニメを提案したのか。再び代理店担当者。

 

「強く意識したのは“ソーシャルメディアで拡散するコンテンツをつくること“です。そのためには、まずデジタルリテラシーの高い、いわゆるオタク層にリーチする必要があると考えました。そうすると必然的にアニメ、声優という要素が出てきたんです」

 

広告は、見てもらわなければ意味がない。日々大量にCMを流せば認知は高まるが、それにはそれ相当の予算がかかる。しかしYouTubeなどの動画サイトを利用し、ソーシャルメディアで話題になれば、広告予算をそれほどかけずに多くの人に知ってもらうことができるというわけだ。

 

予算のうち、まずは最適なCM枠を押さえた。月曜20:00 – 20:54放送の『ジェネレーション天国』(現在は放送終了)を選んだ理由は、子どもからおとなまで幅広い年齢層が見ている番組だったから。そして、残りの予算は、豪華な声優キャスティングを含む、コンテンツ制作に注ぎ込んだ。

 

ゼウシくん役の花澤香菜さん、ミカちゃん役の内田真礼さんはシーズン毎に7~8本の作品でレギュラーを演じるまさに旬の声優だ。そしてみの太役は、なんと誰もが知っている大ベテランの大山のぶ代さん。名実ともにトップ声優を起用することで、「アニメCMのレベルを超えている」「OPソングが半分を占めてる」など話題が加速。初回放映開始後2時間で、『ゼウシくん』に関するツイートは実に4000件を超えた。

 

地上波では1回限りの放送という要素も、祭のような効果を生んだ。Twitterでは番組中にCMを待つ「ゼウシ待ち」という言葉が普及したほどだ。

 

「第一に、CMであることよりも面白いコンテンツであること。伝えたいメッセージは、すべてオープニング主題歌に込め--といっても『こくさんのおにく!』としか言っていないのですが--、本編アニメはあくまでも、何度でも見たくなるような作品をリクエストしました。国産畜農産物についての説明的な部分はまったくないと思います。これは全農さんが、自由にやらせてくれたからこそ実現できたことですね」(代理店担当)

zeushikun_1

 

■小売店に店頭用CDを配布

もちろん当初の課題である「国産農畜産物の消費拡大」をないがしろにしているわけではない。こちらはCM本編よりも、むしろ実際の売り場も意識している。

 

「スーパーの精肉売り場などでも流してもらえるコンテンツを目指しました。とすると、テレビ番組よりもCMがいいんです。局が制作する番組にすると制作著作がテレビ局に帰属するので、ほかで使いづらくなってしまう。テレビ番組というオファーをいただきながらあえてCM枠を提案したのは、そんな意図もありました」(代理店担当)

 

売り場発のヒット曲というと、「さかなさかなさかな~」というサビが印象的な『おさかな天国』を思い出す方も多いのではないだろうか。

 

『おさかな天国』は、1991年にJF全漁連(全国漁業協同組合連合会)中央シーフードセンターの魚食普及キャンペーンソングとして制作され、約1万本のカセットテープが販促用BGMとして全国の小売店に配布された。96年にCD化、じわじわと人気が出て2002年に市販CDがつくられると、12年目にしてNHK紅白歌合戦のワンコーナーに出場するほどの大ヒット。CD売上は40万枚を記録した。 


 

ゼウシくん役の花澤香菜さんが歌う「おにくじゃぽねすく」も、この良き前例にあやかるべく、すでに各地域の全農を通して全国の小売店にCD配布を行っている。

 

「CDを配っても、使ってくれるかどうかは小売店さん次第。『売り場で流したい』と思ってもらうためにも、話題性を高める必要がありました」(代理店担当)

 

1回90秒のうち、オープニング主題歌が42秒と約半分。本編コンテンツにこだわりながらも主題歌に多くの時間を割いたのは、まずキャッチーな音楽で視聴者の気を引くため。それだけでなく、数年単位で先の展開を見据えているからなのだ。

 

 

■コンテンツ力と、プロモーションの2本柱

最後に、『ゼウシくん』第1期における、主なプロモーションの軌跡を見てほしい。

 

2013年10月29日:公式サイトオープン
2013年12月13日:アニメ化発表
2013年12月20日:声優発表イベント開催(秋葉原UDXアキバ広場)
2014年1月6日: アニメ放映スタート
2014年1月23日: CD化発表
2014年2月18日: LINEスタンプ配布
2014年3月24日: アニメ第1期終了
2014年3月26日: ファン感謝祭&CD発売記念イベント開催(東京駅直結丸ビル内)

 

これらのプロモーションは、企画当初から大枠が計画されていたという。

 

いくらコンテンツに力を注いでも、知る人ぞ知る通好みの作品で終わってしまえば、広告として成功とはいえない。『ゼウシくん』の成功は、CMの枠を外し「アニメ作品」として全力投球したコンテンツ制作と、拡散のために計算しつくされた用意周到なプロモーション、この2本柱があってこそといえるだろう。

 

なお、全農には現在も、マスコミの取材やおもちゃメーカーの売り込みなど、これまでにない反響が相次いでいる。生産者からも好評で、各都道府県にある支部からも「ゼウシくんを使いたい」とリクエストがあるとか。さらなる発展を願って、第2期スタート時には、全農グループの直営焼肉店で連動キャンペーンも行う予定だ。

第二期はテレビCMではなく、YouTube公式チャンネルにて11月29日から月1回公開、全4回を予定。オープニングも一新、放映時間が長くなり、登場キャラクターも増えるという。ネットならではの見せ方はテレビCMとどう変わるのか。広告展開の観点では、そのプロモーションの変化にも注目したいところだ。

 

 

■「おにくだいすき!ゼウシくん」第二期

YouTube公式チャンネルにて配信予定(全4回)

zeushi_2

 

2014年11月29日 第1話「無限の彼方へ」(仮)
2014年12月26日 第2話「国をささえる肉」(仮)
2015年 1月29日 第3話「お気に入りのアイドル」(仮)
2015年 2月28日 第4話 Coming Soon!
※都合により変更する場合があります

 

・Youtube公式チャンネル http://www.youtube.com/user/zeushikun
・ゼウシくん公式サイト http://zeushi-kun.jp
・ゼウシくん公式Twitter(@zeushi_kun) https://twitter.com/zeushi_kun

 

 

――――――――
インタビュー・構成:藤崎美穂
ライター。出版社、広告代理店を経てフリー。インタビューをメインに、一般誌からビジネス誌、広告専門誌、企業広報誌などで幅広く執筆。広告デザイン関連の単行本構成多数。