今年で開催7年目を迎える Anime Festival Asia(以下AFA)。昨年はシンガポール国内外から80,000人を超えるアニメファンが来場し、名実共に東南アジアを代表するアニメイベントに成長している。今年はのべ65もの企業ブースが出展しているが、その中にはアニメとは直接的な関係がない大手企業の名前も散見される。それら企業のなかでも、ブース作りに特に力を入れていたキヤノンの担当者に話を伺った。
■「写真文化」が根付いていない東南アジア
AFAの会場でひときわ大きなブースを展開し、イベントのメインスポンサーにも名を連ねているキヤノン。AFAには2010年から参加を続けており、毎年ブースに訪れる来場者も少なくない。なぜ、継続して参加し続けるのか。また、そもそもどういった経緯で参加するに至ったのか。キヤノン・シンガポールの担当者に話を伺った。
ブースの責任者を務める、吉地大シニアマネージャーは「シンガポールをはじめとする東南アジアでは日米欧のようには写真文化が根付いておらず、デジタル化が進んだことでいっそう写真として残す機会がなくなってきている」(以下括弧内は同氏の発言)と東南アジアにおける写真文化の事情を話す。
実際に会場を見渡してみると、AFAでは日本のアニメイベントと同様に多くの来場者がコンパクトデジカメやデジタル一眼を手にしている。
これに対し、同氏は「『思い出を残す事は大切である』といくらテレビなどで発信しても、必要性を感じてもらえなければ届かない。若者がこんなに写真を身近に感じてくれるイベントは東南アジアでは他にはない。来場者全員があちこちで撮っている、写真ニーズが高まっている場所だからこそ、伝えられることであり、一緒によりよい思い出を残す手伝いをしていきたい。プリントアウトを含めての写真文化だと考えており、スマートフォンの写真でもプリントアウトをし、長く残してほしい」という願いを持っている。
同時に「家電量販店などの店頭において、この願いを伝えることは難しい」と、一筋縄でいかないのが現状であるようだ。
「どうすれば写真文化がそれぞれの生活の一部としてとけ込めるのか。その手段のひとつとして、AFA に参加している」のだという。
■AFAの来場者のなかでも特に注目したのはコスプレイヤーの存在。
同氏によると、ブースのコンセプトは「インプットとアウトプットの総合提案」であり、「写真を撮って、印刷をして、残してもらう」というテーマを初回の参加時から継続しているという。そのテーマを伝えるうえで特に注目したのは、コスプレイヤーの存在である。
「コスプレイヤーが一番の晴れ舞台を形に残すには写真しか無いといわれている。それをきれいに残すためのブース作りを原点とし、コスプレイヤーを撮影しにくるカメラファンが撮影しやすいように、また家族連れの来場者も楽しめるようになどいろいろと試行錯誤してきた結果、今の形になった」という。
キヤノンのブースでは、様々な絵柄の背景の撮影ボックスを設置しており、自由に使用することができる。また、希望に応じてプロのカメラマンに写真の撮影をしてもらえる。撮影をした写真はその場でポストカードサイズやA4サイズにプリントし、
無料でプレゼントをしている。
同氏によると、このサービスのキーワードは「捨てられない写真」であり、「『日常では撮れない、一生残したい思い出』を1枚の写真に込めて家に持ってかえって大切にしてほしい」ということ願い、実施されている。
さらに「残してもらうために撮影にはプロ用機材を使うなど品質には徹底的にこだわっている。持ち帰った写真は飾っても良いし、アルバムで保存しても良い。10年後、20年後に『こんな時があったな』と思えるような写真をこの場で提供したい」とも願っている。
そして「このことが、将来『家庭で写真を楽しみ、親から子供に受け継がれる文化が当たり前になる』といったことに少しでもつながれば」と話す。
■アニメイベントへの参加は国や文化ごとに考える必要がある
また、日本を含めた先進国での出展を考えているかを尋ねたところ、「家庭でも職場でも写真文化が根付いているように、写真文化が成熟している。そういった国々では、AFAで行っているような形でイベントに参加する必要性はないでしょう」とのこと。
また、新興国のうち東南アジアで行っている理由として「日本のコンテンツやアニメの文化が根付き、若者たちも楽しんでいる」といったことがあるようだ。さらに「もともとアニメの文化が無かったシンガポールでアニメが根付いたように、いつの日か写真を楽しむ文化が根付くのを楽しみにしている」と話すように、写真文化との共通点を見いだしてアニメイベントに参加をしているようである。
一般企業がアニメイベントに参加することに対し、“若者に人気があるコンテンツに便乗をしているだけではないか”という批判の声を耳にする事は少なくない。また、単純なコラボレーションにとどまり、上手く活用できていない事例が多いのも事実である。海外でコンテンツを活用した展開を行うにあたって、それぞれの国の文化やコンテンツの受け入れられかたをよく考えることが、成功するための秘訣になっていくだろう。
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文・AFA取材班