あの恐竜ブーム再び!?2015年、なぜ恐竜がアツいのか?

2015.07.03


※メガ恐竜展2015 イメージイラストより

 

映画『ジュラシック・パーク』シリーズが90年代前半から巻き起こした恐竜人気。今年、同シリーズの最新作『ジュラシック・ワールド』が14年ぶりに公開されることで、再び、巨大な恐竜ブームの到来が期待されている。果たして、恐竜が流行る理由は? その歴史や影響とは? 今年予定されているさまざまなイベントや関連メディア作品のラインナップを俯瞰しながら、日本の夏のアイドルと化した恐竜人気を改めて考察してみたい。

 

■エンタメ×教育の相乗効果でブームが生まれる

 夏休みには大型催事が開催されるのが通例だが、中でも特に人気と注目度が高いのが「恐竜イベント」である。ところが、数年に一度の「当たり年」に合致すると、恐竜人気は単なるイベントに留まらず、社会現象まで巻き起こす「巨大ブーム」へと成長する。どうやら2015年は、その当たり年の条件を兼ね揃えた、ブームを予感させる年なのだ。

 

 以前の例からすると、予測されるブームは単発の打ち上げ花火ではなく、数年も続く長丁場になるはず。大きな経済効果を生み出すブームの予兆の数々は、各企業の商品企画担当者やキャンペーン企画担当者にとっても、見過ごせない重要な情報になっていくだろう。
 まず、最初の条件はメディアとの連動である。8月5日公開の『ジュラシック・ワールド』は、『ジュラシック・パーク』シリーズの14年ぶりの続編作品だ。世界的恐竜ブームの立役者にもなったこのシリーズは、全世界で900億円以上の興行収入を記録した93年の第1作公開以降、恐竜映画ジャンルを確立しただけでなく、エンターティメント面からも恐竜人気を牽引。恐竜ブームは、必ず『ジュラシック・パーク』シリーズと連動するといっても過言ではない。
 2番目の条件は、メディア作品と両輪になっているエデュケーション面でのムーブメントだ。現実の古生物学上の新学説や新発見にともない、恐竜のイメージは次々とリニューアルされる。その新情報がドキュメンタリーや科学情報番組の格好の題材となり、世界中のトップニュースとなるのである。ここ数年、日本でも『ジュラシック・パーク』の主役ティラノサウルスの「羽毛恐竜」説や『ジュラシック・パークⅢ』の主役スピノサウルスの生態の新学説が、TVや新聞紙上を賑わせたのを記憶している方も多いはず。2015年は、このエンターティメント面とエデュケーション面がガッチリと連動する巨大ブームの条件を備えた好機になっている。
 さらに今年開業し、露出度・注目度が飛躍的に上がっている北陸新幹線も恐竜ブームに一役買いそうだ。沿線上にあり2022年度の北陸新幹線敦賀開業を目指す福井県が、化石発掘量全国1位として誘客イベントをスタートさせているからだ。まず北陸新幹線金沢開業に合わせ、JR福井駅西口「恐竜広場」にフクイラプトルなど3体の動く実物大モニュメントを設置し、ニュース番組で大きく取り上げられた。4月には福井県立恐竜博物館(福井県勝山市)に隣接する形で「かつやまディノパーク」をオープン。原寸大の恐竜ロボットがいる屋外アミューズメント施設として新たな人気スポットとなっている。ゴールデンウィーク(4月25日~5月6日)の恐竜博物館の入館者数過去最高を記録したことからも福井県の取り組みは着々と成果を上げつつあるようだ。

 

ジュラシック・ワールド』2015年8月7日(金)より全国公開
配給:東宝東和 監督:コリン・トレボロウ 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
(C) UNIVERSAL STUDIOS & AMBLIN ENTERTAINMENT, INC.

 

 

JR福井駅西口「恐竜広場」。他にも恐竜トリックアートのパネル設置や、AR(仮想現実)により福井の恐竜が生息していた白亜紀前期の様子をスマートフォンで360度の視点から見られるアプリ「AR恐竜王国福井」の提供なども行っている。 写真提供:福井県総合政策部交通まちづくり課

 

■日本の恐竜ブーム、事始め

 

 そもそも日本人の恐竜好きは、明治時代の科学が、恐竜研究の盛んなヨーロッパから輸入されたことに端を発する。それが爆発的に広がったのは60年代。64年に恐竜の全身復元骨格「アロサウルス」が、国立科学博物館で初公開され人気を博したのだ。また、68年には日本初のクビナガリュウである「フタバスズキリュウ」の化石が発見され、70年に新宿・小田急デパートを皮切りにした巡回展「地球展」で展示されて日本中の話題をさらっている。この時期の恐竜人気は、映画館やTVでの怪獣ブームとの相乗効果になっていたのが興味深い。

 

 以降、時代とともに恐竜イベントの規模は拡大し、旧ソ連、ロシア、モンゴル、中国、アメリカなど、化石産地の政府や研究機関の協力を得て人気を博していく。現在、恐竜ブームを担っているファンの年齢層が三世代以上にも渡っているのは、こうした恐竜研究の啓蒙活動が、絶え間なく続けられてきた成果でもある。

 

 そして、博覧会ブームに湧いたバブル景気末の90年には、現在の巨大恐竜イベントのルーツ「大恐竜博」が幕張メッセで開催され、ひと夏で100万人近い観客を動員。3年後の映画『ジュラシック・パーク』が生む大恐竜ブームの起爆剤となった。

 

 その後、続編『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)公開時は、アメリカのオークションにおいて、約10億円で落札されたティラノサウルスの全身骨格「スー」が世界中のトップニュースとなり(展示会は全米で330万人を動員)、『ジュラシック・パークⅢ』(2001)公開時は、日本で「世界最大の恐竜博」が翌02年に開催されて、総入場者数108万人を記録。恐竜人気は『ジュラシック・パーク』と共に歩んでいくのだ。

 

■最新恐竜イベントが日本各地で開かれる

 

 『ジュラシック・ワールド』公開の2015年も、予定されている恐竜イベントは多い。まず、ヨーロッパ最大の恐竜「トゥリアサウルス」の復元骨格(半身)が日本初公開される「メガ恐竜展2015 -巨大化の謎にせまる-」(会期:2015年7月18日~8月30日/ 幕張メッセ 国際展示場11ホール)が最大規模の大型イベントである。

 

 国立科学博物館は、国内外から集めた貴重な化石標本に加え、精巧な復元模型や4K映像などを活用し、生命誕生から人類に至る脊椎動物の進化の道のりをたどる特別展「生命大躍進」(会期:2015年7月7日~10月4日)を開催。5月からは「NHKスペシャル 生命大躍進」やアニメ「ピカイア!」とメディア連動し、幅広い年齢層が興味を持てる内容となっている。恐竜の展示は一部だが、太古からの生命の進化をたどる意欲的な展示で恐竜ファンの好奇心をくすぐってくれるはずだ。

 

 地方では山梨県立博物館の「大化石展 山梨に恐竜はいたか!?」(会期:2015年7月18日~8月31日)を筆頭に、北九州市のいのちのたび博物館「スぺイン 奇跡の恐竜たち」(会期:7月11日~9月23日)、福井県立恐竜博物館の「恐竜博物館開館15周年記念 南アジアの恐竜展」(会期:7月10日~10月12日)など数都市で様々なイベントの開催が予定されている。

 

 さて、恐竜ファンの興味は、こうしたイベントで、どんな新学説が発表されるのか、いかに新しい恐竜イメージが提示されるのかに集中する。 『ジュラシック・パーク』で大きなインパクトを残した「走るティラノサウルス」や「狩りをするラプトル」も、実は日進月歩の恐竜研究ではすでに過去の姿。その後の「ティラノは羽毛恐竜だった説」は半ば常識にもなっているが、最近では羽毛が生えていたのは若い個体で、成熟すると羽毛の大部分は抜け落ちたとする説も。また、骨格から考えると走って獲物を追い込んだのは若いティラノで、大型の成体は止めを刺す役目。つまりグループで狩りをしたのではないかと考えられている。『ジュラシック・パークⅢ』で脚光を浴びた肉食恐竜スピノサウルスも、最近の骨格構造の研究では、陸上よりも水中での生活に適応した、初期のクジラのような体形だったとの結果が発表された。

 

 何億年もの太古の生物ながら、毎年、ニューコンセプト、ニューモードがアップデートされる新鮮さが、恐竜人気が持続する要因の一つなのだ。

 

メガ恐竜展2015 -巨大化の謎にせまる-」(幕張メッセ、会期:2015年7月18日~8月30日)

特別展「生命大躍進」(国立科学博物館、会期:2015年7月7日~10月4日)

 

■毎年更新される新情報が長期的なブームを支える

 

 恐竜ブームに合わせて、リニューアルされているのが関連商品である。最も人気のある書籍ジャンルを見てみよう。

 

 通常、エデュケーション面の主力商品となる「図鑑」モノは、一度、発行されると、改版されるのに時間がかかる。これは各科学分野の学説自体が、なかなか更新されない事情にも起因するのだが、『ジュラシック・パーク』以降の古生物学上では、次々に新説が発表されるようになった。これには出版社側も対応に苦慮しているようで、ほんの十数年前まで、ゴジラのような直立型恐竜が描かれていたイラストは、いつのまにか前傾姿勢のスタイルに改められ、昨今の「羽毛恐竜説」に対応を始めている図鑑も多い。14年発行の『図鑑 NEO 新版 恐竜』(小学館)や『学研の図鑑LIVE 恐竜』(学研マーケティング)では羽毛恐竜説を始めいろいろな説を取り上げている。CGを多用したリアルな映像が収録されたDVDも付属するなど、お父さん世代が書店の図鑑コーナーに行けば、驚かされること必至である。

 

dino_06A dino_06B
小学館の図鑑 NEO 新版 恐竜』最新の図鑑では、ティラノサウルスの羽毛説も紹介されている(拡大画像はこちら)。DVDが付属して、映像でも最新の学説を学べる。

 

 図鑑編集者たちの悪戦苦闘は、まだまだ続きそうだ。たとえば、昭和の子ども時代に図鑑に載っていた「ブロントサウルス」と呼ばれる首の長い雷竜を覚えているオールドファンは多いだろう。このブロントサウルスは、後にアパトサウルスと同種であると同定され、現在では図鑑から消えてしまった。ところが今年になってポーランドなどの研究チームが、ブロントサウルスの化石にアパトサウルスと明確に異なる特徴を発見し、別々に分類すべきとの論文を発表。これが認知されたら、当然ブロントサウルスを削っていた図鑑も再びページを追加しないといけないわけである。毎年、衣装や新譜情報が更新されるアイドル歌手のような古生物を相手に、編集者の悲鳴が聞こえてきそうな話だ。

 

■商品の多様性とこだわりが長い人気を支える

 

 それでも出版社は、今年の恐竜ブームのチャンスを逃さず、果敢に挑んでいくらしい。

 

 とある編集プロダクションから聞きおよんだ話だと、夏に合わせた恐竜本を作るべく数人の古生物学者に監修依頼の声をかけたが、全員から「すでにスケジュールがいっぱい」と丁重に断られてしまったとか。どうやら今夏の書店で開かれる「恐竜フェア」は、新刊書の出版ラッシュに賑わいそうな雰囲気である。

 

 書籍と同様、関連商品も枚挙に暇がない。恐竜グッズはホビーから教材まで、商品コンセプトの方向性も幅広いため、実に多様な商品開発が可能。ただし、子供から大人までの客層のほとんどが、一家言ある恐竜博士ばかりなので、開発者にはそれなりのこだわりが要求されるのも事実。そんな書籍やグッズの多様性とこだわりこそが、長い恐竜人気を支えてきたもう一つの要因になっているのだ。

 

 厚いファン層に支えられた恐竜人気は世界的な傾向だが、逆に見れば、多額の経済効果があるからこそ、学問の世界にも資金が流れ毎年の新発見につながっている。恐竜は次々と世間をあっと驚かせる話題を発信し、いろいろなメディアに出演する、まさに現在進行形のビッグアイドルなのだ。

 

 大きな経済効果が予想される2015年の恐竜ブームは、映画『ジュラシック・ワールド』を始めとするエンターティメント面、大型イベントを中心とするエデュケーション面、それらを取り巻くマーチャンダイジングなどのタイミングが合致した、注目すべきムーブメント。各企業の商品企画担当者やキャンペーン企画担当者も、アイドルがブレイクするタイミングを見逃す手はないだろう。

 

――――――――

文・幕田けいた
大衆文化研究家/ライター。映像、小説などのメディアと、文化史、科学史といった歴史との関わりを研究している。絵本「ウルトラマンをつくったひとたち」(共著/偕成社)「ジュール・ヴェルヌが描いた横浜」
(共著/慶應義塾大学教養研究センター)