リリカルスクールに学ぶ「物販」クリエイティブの突破力

2014.12.31

 

 みなさん、ごきげんいかがでしょうか。グラビアアイドル評論家の竹下ジャパンです。前回、書かせていただいた虹のコンキスタドールさんについての文章を好評いただきまして、再登板となりました。ありがとうございます。ふたたび、3000字のアイドル×広告評、お付き合いいただけますと幸いです。

 さて、冒頭におきまして「グラビアアイドル評論家」と自己紹介しました通り、普段はおもにグラビアアイドルについて執筆する機会が多いワタクシですが、近年はグラビアアイドルとライブアイドルのボーダーレス化は進行し、グラビアアイドルがアイドルのようにライブハウスで歌い踊ることも(篠崎愛さんが参加したライブアイドルグループ「AeLL.」やミスFLASHのメンバーが参加する「G☆Girls」など)、ライブアイドルが雑誌のグラビアページを飾ることも、どちらもまったく珍しいものではありません。

 

 ただ、そのなかで「雑誌グラビア」において少々、変化が訪れているように感じています。ここ数年はAKB48グループのメンバーが表紙になることが圧倒的な物量作戦によって増大していたのが、最近は巻中、巻末グラビアを中心にライブアイドルのグラビアが掲載されるケースも見受けられるようになっています。『週刊プレイボーイ』では、惜しくも今年解散したBiSはセミヌードも披露したり、『週刊ヤングジャンプ』では、仮面女子、スルースキルズ、HR、paletなどのライブアイドルがトーナメントで表紙の座を目指す「サキドルエーストーナメント」という企画が開催されていたりと、ライブアイドルの雑誌グラビアというメディアでの仕事の拡大は、今年のライブアイドル界の隠れたトピックといえるでしょう。

 

 さて、本題が遅くなりましたが、今回ご紹介したいアイドルは、「lyrical school」(リリカル・スクール)です。11月に発売された『週刊プレイボーイ』のグラビアに登場している彼女たち。あまり無い水着姿は、かなりいい感じでその時点で素晴らしかったのですが、「広告的」な視点からもグッとくる点ところが多いです。

 

 2010年10月に、前身グループである6人組ユニット「tengal6」として結成された彼女たち。“清純派ヒップホップアイドル”として、音楽性において、デビュー時から他のアイドルと一線を画している感がありました。ちなみに前述のBiSが2010年11月に結成されているということ、また、さまざまな音楽にアプローチするのではなく、特定の音楽ジャンルに立脚しているという点において(tengal6/lyrical schoolは、ヒップホップ。BiSは、ポスト・ハードコア、スクリーモ系)共通点は多いように感じます。

 

 話がそれましたが、2012年、タワーレコードのアイドル専門レーベル「T-Palette Records」への参加、lyrical school(愛称は、リリスク)への改名を経て、結成5年目となった今年は、1000人規模のライブハウスでのワンマンライブも成功させるなど着実に人気を集めています。

 

 そんな彼女たちの大きな魅力は、ウェルメイドな楽曲群、プロモーションビデオなどのクリエイティブにあると思います。もともと、美大生を中心としたクリエイティブチーム「NEWTRAL」のプロデュースということもあり、そのセンスの良さはファンを始め、多くの人の話題になっています。

 

 


最初期作『ルービックキューブ』。PVディレクターは、彼女たちのプロデューサーでもキムヤスヒロ氏。

 

 


プールに吊り下げられ大量のシャンデリアが印象的な名曲『リボンをきゅっと 』。

 

 


新曲「PRIDE」は、これまでに無いスモーキーな世界観。

 

 

 そのほか、ファンのみならずとも、話題にのぼるのが、彼女たちの「物販」グッズです。アイドルファンの悩みのタネとされるのが、「グッズがダサい」ということ。そのアイドルを応援したいけれども、大人の男性が着用するには、恥ずかしいフォントであったりカラーが使用されているため、二の足を踏むということがあると思います。その点、リリスクのグッズはライブ会場だけではなく、普段着としてもかっこ良い出来。TOKYO IDOL FESTIVALなどの大規模アイドルフェスでもリリスクの物販への行列が異常に長い、という状況を頻繁に目にします。
 群雄割拠のライブアイドルの世界において、「本当に実力がある」、「めちゃくちゃかわいい」といった要素は、主観的かつ流動的なため、一般性を持ちづらい、すなわち頭ひとつ抜け出る力を持つことができないという状態になりがちだと分析できます(“千年に一人の美少女”とネットでバズった橋本環奈は非常に稀有な例で、そのため次に続くことは難しいといえるでしょう)。

 

 そのなかで、「楽曲」、「プロモーションビデオ」、「物販」というライブアイドルのプロデュースに求められながら、見過ごされがちな基本的なクリエイティブをセンス良くまとめているリリスク(の運営陣)の力は非常におもしろいと思います。アイドルブームが長く続き、一般的な趣味として認識されることも増えてきた昨今ではありますが、ライブアイドルの知名度は、相対的にはまだまだ発展途上にあるかもしれません。そのなかで、リリスクの普段着としても着れるTシャツや、パーカーなどの「物販」が、「それかわいいね」→「どこで買ったの?」→「え、アイドルのパーカー?」→「い、意外とイケてるじゃん」→「ライブ行ってみようかな」というふうにこれまでアイドルにまったく興味を持たなかった層や年代やカルチャーなどを超越したコンテンツとして、訴求する可能性も高いとワタクシは思っております。もはやリリスクの物販は、アイドルファン(≒ヲタク)であることの踏み絵的なモノではなく、ファッショントレンド的に楽しめるものと受け取られているといってもよいでしょう。

 

 「物販」にもその特徴が大きく反映されるライブアイドル。裏を返せば、日夜自身がプロデュースするアイドルのことを考えている運営陣に、広告の企画やアートディレクションを委ねる、という選択もアイドルと広告との幸せな関係において必要なことなのかもしれません。

 

 

tengal6時代の2011年、初PV公開記念&バレンタイン特別企画として、抽選で選ばれたファンのお宅に訪問しライブをした映像。リアルな息遣いが聞こえてくるような生っぽさと、バラエティ番組的に安心して見られる秀逸なビデオとなっている。後編では狭い一室でノリノリでライブをするフレッシュさが必見。

 

 

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lyrical school official web site http://lyricalschool.com/

 

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文・竹下ジャパン
1988年生まれ。ライター、編集者。「サイゾー」、「週刊プレイボーイ」など様々な媒体で執筆中。その他、アイドルイベントの司会やプロデュース活動も。2011年よりオルタナティブ・メディア「甘噛みマガジン」編集長。