攻殻機動隊の世界がいよいよ現実に!? 「REALIZE PROJECT」、その中心人物を直撃!

2015.09.14

 人気SFアニメ『攻殻機動隊』の新たなプロジェクトをご存知でしょうか。同作の世界観を日本の最先端技術を使って現実化する「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」(以下、「REALIZE PROJECT」)です。

 

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 士郎正宗氏による原作漫画から25年。今年6月20日には新作の劇場アニメ「攻殻機動隊 新劇場版」も公開されるなど、まだまだ盛り上がりを見せる『攻殻機動隊』。その最大の特徴は、2029年という近未来を舞台に、義体、電脳、ロボット、人工知能など、原作漫画が世に出た当時1989年の40年後の未来のテクノロジーが、とてもリアルに感じられるところ。

 

 今年6月に発表された「REALIZE PROJECT」では、日本を代表する企業、大学、自治体や行政といった「産・学・官」が一体となり、そのテクノロジーの現実化(リアライズ)を目指すというのです。

 

 そんな壮大な夢を、どのように実現していくつもりなのか。また、そもそもなぜ『攻殻機動隊』が選ばれたのか。同プロジェクト事務局・統括顧問の武藤博昭さんに聞きました。

 

■プロジェクトの原点となったのは、玩具発の全世界アニメ

 

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「このプロジェクトの理念や目的についてお話する前に、私の経歴からご説明したほうがいいでしょう。ほとんどの方にとっては、私が何者かわからない、すごく怪しい人に見えているでしょうし(笑)。それに今回の『REALIZE PROJECT』は、これまでに私がやってきた仕事の集大成とも言えるものなのです」

 

 同プロジェクトの発起人のひとりでもある武藤さんは、もともと電通テックで、『豆しば』などのキャラクタービジネスや、国内アニメや劇場映画などの海外展開を手がけてきたそうです。

 

 そんな武藤さんにとって大きな転機になったのが、2012年10月~13年9月までテレビ東京系列で放映された『獣旋バトル モンスーノ』(以下、『モンスーノ』)というアニメの企画制作に携わったことでした。

 

「これはアニメ業界に新しいビジネスモデルを提案できた画期的な作品でした。アメリカの玩具会社、JAKKS Pacificと電通エンタテインメントUSAが中心になってスタートした企画で、従来のアニメ事業でなく、発想の転換で作られたのです」

 

 

 この「発想の転換」について、武藤さんは次のように説明します。

 

 一般的な日本のアニメ事業は、まずは優れた原作をアニメ化する権利を取得し、製作委員会を組織するところから始まります。そして、日本国内で放映+商品化事業をスタートした後、海外へと番組が販売されていました。

 

「しかし『モンスーノ』の企画が立ち上がったのは、ちょうどDVDなど映像パッケージが全世界的に売れなくなった時代。そこで、まず目指したのは、全世界同時の玩具の発売と放送でした。そうすれば理論上、海賊版や違法なダウンロードやストリーミング配信があってもビジネスのチャンスロスを最小限に食い止めることができます。

『モンスーノ』では、全世界の玩具市場の25%を超える北米市場から商品展開、そして放送を開始。続いて欧州、という感じで展開していきました。そして遅れること半年、ここ日本での放送を開始しました。玩具会社が自社のおもちゃを売るための最適なプロモーションとしてのアニメ作品。30分のTVCMとして、オリジナル原作として、企画制作することにしたのです。

そのため、アニメの内容も登場するキャラクターともに、玩具をどれだけ格好よく魅力的に見せられるか? それを意識しました。登場する怖いモンスターが徐々に可愛らしく、視聴者が欲しくなるような、モンスターと人間の1話完結の友情物語を日米で企画しました。

これは当時の電通テックが誇る、プロモーション×クリエーティブ×コンテンツという組織横断型の玩具開発プロジェクトとなりました。この仕事を通して気付いたのは、玩具開発における、原案や開発者に対して、しっかり権利を保護する文化が欧米にあること。ものづくりにおいて、携わったクリエーティブに対する、正当な対価が、しっかりと認められていることでした」

 

 つまり、商品の宣伝方法としてアニメというコンテンツを活用する。現在でいう「コンテンツマーケティング」に通じる発想だったのです。

 

「玩具はさまざまな知的財産が集まって作られており、売上の数%がロイヤリティや使用料として、製作委員会に分配されます。1個あたりの売上としては微々たるものですが、ヒットコンテンツであれば世界を相手にビジネスを展開でき、合計で莫大な金額になります。

だから『モンスーノ』は、最初から『世界同時に玩具販売・放送をスタート』することを目指して事業も玩具もアニメも企画を立て、そのあとで玩具メーカーの全世界での販売シンジケート、アニメを全世界で放映するメディアのシンジケートを作り上げていきました。最終的には、日本を含めた80ヶ国で展開する大きなプロジェクトに成長しました」

 

 『モンスーノ』での経験から、アニメにおける新しいビジネスの可能性を感じた武藤さん。「REALIZE PROJECT」も、こうした「まさに日本を代表する『攻殻機動隊』というコンテンツをテーマとした、新たなビジネスモデルを作り上げるためのプロジェクト」であると語ります。

 

■攻殻機動隊の世界観で難解なテクノロジーを「翻訳」する

 

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 なぜ『モンスーノ』のように新作を立ち上げるのではなく、すでに世界的に人気となっている『攻殻機動隊』を選んだのでしょうか。

 

「電通テック時代に『攻殻機動隊』の海外窓口をお預かりしていたことが、ご縁のひとつです。しかし、理由はそれだけではありません」

 

 その理由とは、『攻殻機動隊』の持つ世界観にありました。

 

「『攻殻機動隊』には近未来の先端技術が次々と登場します。しかし、そのほとんどは全くあり得ないものではなく、アイデア自体はすでに存在するものが多い。原作者・士郎正宗先生が、それを豊かな想像力によって作品の世界で25年以上前に、すでに具体的に描いていました。そんな『攻殻機動隊』の世界観に魅了された研究者やエンジニアはたくさんいます」

 

 例えば、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦氏は、『攻殻機動隊』にヒントを得て、作中に登場する「光学迷彩」(カメレオンのように周囲の景色に溶け込む服)を実際に研究されています。

 

 つまり、『攻殻機動隊』には新しいテクノロジーを生み出すための「種」がいっぱい蒔かれているのです。この「種」を更に育てるためのプラットフォームとして、「REALIZE PROJECT」は始まりました。

(©攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 2015資料より)

 

 では、このプラットフォームから具体的にどんなものを生み出していくのか? そのヒントになるのは、やはり「玩具」です。

 

「2013年にアメリカのWWDC(世界開発者会議)で紹介された『Anki Drive』という、一見玩具のようなテクノロジーがあります。電気モーターで動くミニカーをスマートフォンのアプリで操作するもので、レースを重ねるごとにプレイヤーの走行パターンを学習していく特徴を持っています。いわば、『未来の自動運転装置のミニチュア版』といえるものであり、IT企業からも非常に注目されている。海外ではアップルストアでも販売されています。

 

このように、テクノロジーとエンタメ性が交錯する玩具というジャンルは、最先端技術の実験場所にもなり得る! と私は考えています。『REALIZE PROJECT』では、単に日本のすごい技術を紹介するだけでなく、そこに『攻殻機動隊』というコンテンツの世界観を加えることで、より幅広い層にも受け入れられるカタチにできると思っています」

 

 日本のサブカルチャーに詳しい人であれば、頭につけた猫耳が脳波で動く「necomimi」のようなプロダクトを想像してみるといいかもしれません。

 

「脳波を受信してモノを動かす」というテクノロジー自体はすごいものですが、科学技術に詳しくない人には、いまいちその驚きが伝わりづらいもの。そこに「猫耳」という世界観を加えることで、先端技術がどのように応用されるのか、わかりやすく、しかも面白く示すことに成功しています。

「このプロジェクトでは、『攻殻機動隊』は日本の最先端技術をわかりやすく『翻訳』する『触媒』です。そして、日本の技術者や科学者たちが目標にする『道標』になりたい! と思っています」と武藤さん。

 

 「REALIZE PROJECT」では現在、2029年までにさまざまなカタチで1000の先端事業を送り出し、GDP1%の経済効果をもたらすことを目標にしているそうです。

 

■コンテンツが旗印の新たなインキュベーション事業

 

 しかし、ここで疑問です。素晴らしい理念を持つ「REALIZE PROJECT」ですが、プロジェクト自体の運営はどのように行っていくのでしょうか。具体的に、どのようにして「稼ぐ」つもりなのでしょうか。

「いまは、企業や自治体の協賛金で運営しています。それは『攻殻機動隊』のキャラクターを宣伝販促や版権素材を使った従来までの単純なアニメ事業ではありません」

(©攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 2015資料より)

 

「例えば神戸市とのコラボ『神戸市公安9課』では、『IT産業の振興に積極的に取り組む街』というイメージのPRに、『攻殻機動隊 新劇場版』とタイアップいただいています。今後は、神戸を舞台に『攻殻機動隊』に登場する、電脳や人工知能、ネットワークなどの最先端技術をテーマにしたハッカソンなども行っていきます。

つまり、企業の皆様には、協賛というかたちで『REALIZE PROJECT』という、優れた研究者、開発者、起業家などが集う、プラットフォームに参画いただき、ここ10年ほどで元気をなくしてしまった、世界に誇る日本の開発魂みたいなものを、取り戻す一助になりたいのです。

チャレンジすること、失敗する勇気。ワクワクするような好奇心こそが、いまこそ、日本に必要なんだ! と。近い将来、東京五輪の2020年のその先、2029年の未来に向けて。こんな気持ちで一緒に日本の最先端技術を盛り上げていただく。そして、そこから生まれたテクノロジーや知見を取り入れ、商品なり、都市計画なり、さまざまなかたちで展開する。そんな未来への投資を募るといった意図も含んでいます。コンテンツをテーマとしたワクワクするような好奇心に溢れる、インキュベーションのようなものだと考えてください」

 

 いち早く、NTTドコモ・ベンチャーズ協賛のもとでスタートしたのが、これからはじまる「REALIZE PROJECT」のインキュベーション事業、「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT the AWARD」です。同イベントでは、『攻殻機動隊』の作中でも重要な3つのキーワード「電脳(人工知能)」「義体(ロボット)」「都市(スマートシティ)」をテーマに、東京、神戸、福岡の3都市でハッカソン、コンテスト、スタートアップ(ピッチ)と9つのプログラムを行います。

(©攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 2015資料より)

 

 それぞれのプログラムの優秀なチームは、来年2月(予定)に東京で開催されるアワードの出場権を得るとともに、実用化に向け、事業会社や投資会社とのマッチングのチャンスを得ることができます。

「海外でも人気の高い『攻殻機動隊』の2029年のテクノロジーを実現しよう! ということもあり、まさに日本らしく最先端技術を世界で人気の日本を代表するコンテンツをテーマに、元気な日本を全世界に発信するチャンスにもなる。ここで集まったアイデアをアイデアのままで終わらせず、具体的な商品やサービスを世界で販売できるようなプロジェクトにしたいと思っています」

 最先端技術のプラットフォームとしての第一歩を踏み出した「REALIZE PROJECT」。アニメを活用した新しいコラボのかたちを示す事例として、今後の展開に注目です。

 

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インタビュー・構成:小山田裕哉

ライター・編集者。『ケトル』『週刊プレイボーイ』『SPA!』などの紙媒体のほか、企業オウンドメディアなどWEB媒体の編集にも携わる。ビジネス・カルチャー・ファッション・広告・時事問題など、「アイドルからラグジュアリーブランドまで」幅広いジャンルの取材・執筆活動を行っている。

■参考リンク

攻殻機動隊REALIZE PROJECT

http://www.realize-project.jp/