去る5月のゴールデンウィーク、徳島にてアニメの祭典「マチ★アソビ」が3日間にわたり開催されました。
【左】徳島市中心部を流れる新町川。奥にかかっている橋が新町橋
【右】アニメーション制作会社・ufotableが運営する映画館「ufotableシネマ」開催期間中はこの施設で上映イベントやトークイベントが実施される。
「マチ★アソビ」とは、徳島県・徳島市で毎年5月と10月に開催されている、「“徳島をアソビ尽くす”ことを目的とした複合エンターテインメントイベント」です。期間中は、徳島市中心部に多くのアニメ・ゲーム・漫画ファンが集まり、トークイベントや上映イベント、屋外ライブ、出展企業による商品販売など様々な催しが行われます。その間、市内のホテル・旅館は満室になるほど。第14回目となる今回は150を超えるイベントが開催され、約7万人以上の参加者が集まりました。
フライヤー表/裏(クリックで拡大)
マチ★アソビでは、アニメ・漫画・ゲームといったサブカルチャーコンテンツの制作企業による展示・出展や、関係者や声優・アーティストによるイベント開催が主な内容です。しかし、それだけであれば、なぜ徳島に数万人以上の来場者が集まるのでしょうか? 筆者は2011年10月に開催されたvol.7から毎回参加していますが、その魅力についてこの記事で考えてみたいと思います。
▼主催側と地元との長年の関係づくり
【上3点】2009年〜2010年までの阿波おどりのポスター。『劇場版 空の境界』の主人公・両義式たちの浴衣姿が艶やか。2010年には東方Projectもポスターで登場
【下】2012年〜2015年までの阿波おどりのポスター。こちらもufotableが制作し、計11枚にもなる4年がかりの連作(大作)ポスターとなっています
「マチ★アソビ」は地方発のイベントとしては“異例”と呼ばれており、イベント規模や来場者数は右肩上がりで拡大しています。このイベントがスタートしたのは2009年10月にさかのぼりますが、徳島市でこうしたイベントが開催されるようになったのは、アニメーション制作会社であるufotable(ユーフォーテーブル)の近藤光社長が自身の故郷である徳島市に同年4月に徳島にも制作スタジオを開設したことがきっかけでした。そうした流れで、徳島市観光協会がufotableに2009年の阿波踊りのポスターを依頼。当時、同スタジオufotableが制作していた劇場アニメーション作品『劇場版 空の境界』のキャラクターたちが描かれたポスターは大きな話題になりました。こうした徳島市をはじめとした近隣商店や住民とufotableによる取り組みがあった上で、同年10月に第1回「マチ★アソビ」が開催される運びになりました。近藤社長とufotableスタッフ・ボランティアスタッフの尽力と、徳島県・徳島市の自治体と観光協会などの深い理解と協力体制があったからこそ実現し、これまで継続できていると言えます。
▼出演者と参加者の立場がフラット
TVアニメ『アルドノア・ゼロ」スタッフトークイベントと、ufotableシネマの様子
閉会式の様子。一般コスプレイヤーもステージに登壇するのが定番。マチ★アソビにはパーソナルスポンサー(個人協賛主)がありファンからの熱いメッセージがufotableシネマの入口に掲げられていました
開催二日目となる5/4の午後、メインステージとなる新町橋東公園ステージでは、今年3月に放送が終了したアニメ『アルドノア・ゼロ』の監督・プロデューサーが登場したトークイベントが実施されていました。監督のあおきえいさん、アニメーション制作プロデューサーの長野敏之さん、アニプレックスの作品プロデューサーの黒﨑静佳さんが放送当時を振り返りつつ、制作現場の裏話や、作品ファンからの質問に丁寧に回答していました。
このステージをはじめ、ステージと来場者の距離は非常に近く、まさに「目と目が合う距離」。ふつう、なかなかこうした距離感でトークやライブを楽しむことはできません。
また、開催期間中には東公園ステージ近くの新町川沿いにあるボードウォークという地元の憩いの場に出展企業のパラソルショップが作られ、多くの企業・団体が商品や映像を展示したり、グッズ・軽食の販売を行います。中でも、出版社・星海社はこのパラソルショップに著者サイン本を定価販売することでおなじみです。ほぼ全ての商品にサインが入っている上に、中にはイラストが入っている「当たりサイン本」が隠れているということもあり、毎回オープン前から100人近いファンが列をつくるほど。
【左】新町川沿いにあるボードウォークエリアに設けられる各出展企業のパラソルショップ。出展企業のスペースはここだけでなく、このすぐ裏に位置する東新町商店街や、徳島駅前のポッポ街商店街など複数箇所存在します
【右】パラソルショップのひとつ、出版社・星海社のブース。人気声優・大塚明夫さんの著書をはじめ、人気作家のサイン本を販売するため毎回人気のブースです
さらに、期間中に徳島市を歩いていると、さきほどまでステージに立っていたさまざまな作品スタッフや、作品のキャラクターに命を吹き込む声優さん、主題歌などを手がけるアーティストさんも市内を散策しており、参加者と一体となってイベントを楽しんでいることが伝わってきます。このあたりの「一体感」がまた来たいと思える要因なのでしょう。
「橋の下美術館」乗船時の様子。TVアニメ『アルドノア・ゼロ』やPS VITAソフト『Fate/stay night [Realta Nua]』の巨大ビジュアルが目の前に広がります
「橋の下美術館」乗船時の様子。こちらはTVアニメ「アルドノア・ゼロ」と「蒼き鋼のアルペジオ」のビジュアルです。通過時には各作品のテーマソングが流されテンションも思わずアップしてしまいます
▼徳島とマチ★アソビでしか味わえない体験がある
徳島の人気観光スポットでもある眉山。開催期間中は1万人を超す乗客が利用すると言われています
眉山山頂の展望台から眺める徳島市内の眺望は一見の価値あり! 夜景も素敵です
「なぜわざわざ徳島にこんなにも多くのファンが集まるのか?」という疑問の答えは、現地に足を運んでみるとよくわかります。そのひとつが、眉山山頂へのロープウェイで人気声優によるガイダンスが楽しめる「眉山ロープウェイアナウンス」です。この取り組みは第1回開催時から実施されており、眉山山頂と麓にある阿波おどり会館をつなぐロープウェイのガイダンスを、マチ★アソビ開催期間中は人気キャストが演じるさまざまなキャラクターが眉山や徳島市の歴史を紹介するアナウンスが案内する内容となっており、山頂からの景観の良さもあいまって人気スポットとなっています。
新町川沿いにあるボードウォークから対岸を眺めるとそこはコスプレ撮影エリア。周遊船が通りがかると両岸や橋の上から手が振られる様子がよく見かけられます。
さらに、GW期間中に開催される春のマチ★アソビでは、もうひとつ人気スポット「橋の下美術館」があります。これはもともと市内を流れる新町川で運行している「ひょうたん島周遊船」と協力して実施されています。乗船し出発するとルート上にある「橋の下」に数々のアニメ・ゲーム作品の巨大ビジュアルが掲出されており、船に乗って移動しながらそれらを鑑賞することができます。このように、眉山ロープウェイアナウンスも橋の下美術館も、街中で行われているイベントならではの体験となっており、この“徳島をアソビ尽くす”ことを体現したオリジナリティある取り組みは、日本のみならず世界のどのアニメイベントでも味わうことはできません。
▼常に新しい取り組みが実施されアップデートされている
市来光弘さんと井ノ上奈々さんの公開結婚式の様子。一般来場者も“参列”して二人の門出を祝いました。こうしたイベントがあるのも「マチ★アソビらしさ」です
マチ★アソビは通算14回目となるイベントですが、毎回「どうしてこんなイベントが?」と思える一風変わった催しが必ず生まれています。その「新しい取り組み」のひとつとして、今回は3月に婚約が発表されたばかりの人気声優カップル、市来光弘さんと井ノ上奈々さんの公開結婚式が開催されました。
この公開結婚式は徳島市の中心部を流れる新町川沿いにある新町橋東公園ステージにて催されました。多くの来場者から祝福される様子が印象的で、ほほえましいです。そのほか、参加者・関係者問わず参加できるミニマラソンイベント「マチ★アソビRUN」や、出版社・星海社が主催となって開催される「新町川で釣りをする会」といった、「アニメイベントらしからぬイベント」があり、この「ゆるーく参加できる雰囲気」がマチ★アソビに惹きつけられる人が多数いる理由のひとつなのです。
最終日に開催された「Fate/stay night [UBW] スタッフトークイベント」の様子。青空の下、絵コンテを見つめながらアニメ制作の裏側トークを聞くというのは徳島でしか成立しないのでは?
とてつもない数のイベントが行われているため、すべてのイベントをチェックすることは物理的にまずできないのですが、今回のマチ★アソビで最も印象的だったのが、5/5に開催された「Fate/stay night [UBW] スタッフトークイベント」でした。こちらも東公園ステージで開催されたのですが、実際に制作現場で使われた#01と#15のシーンの絵コンテのコピーが配られ、描かれたカットの制作を担当したアニメーターが描く際にどのように描こうとしたのかについて解説。同作のプロデューサーを務めるufotableの近藤光社長と、宣伝プロデューサーの髙橋祐馬プロデューサーによる司会のもと、制作現場の裏話をまじえたファンにとってはたまらないトークが満載でした。実際の制作資料がトークイベントで配られること自体も異例ですが、それがさらに屋外で行われているというのがまさにマチ★アソビといったところ。また、イベントの最後には、こうしたトークイベントでは定番となっている「プレゼントじゃんけん大会」も実施されました。制作スタッフの直筆寄せ書き色紙をゲットした女性ファンにとっては忘れられないイベントになったはずです。
総合プロデューサーを務めるufotable・近藤光社長は「制作するアニメもマチ★アソビも、常にバージョンアップしていきたい」と語っていましたが、こうしたさまざまな取り組みが実を結んだ結果、スタートして約5年が経過してもイベント規模や来場者数は右肩上がりで拡大し続けています。
すでに次回開催日程もアナウンスされており、第15回目となる「マチ★アソビ vol.15」は、これまでにない取り組みが行われることが発表されました。9月26日(土)にはKalafina、Aimer(エメ)が出演する屋外アコースティックライブ“マチ★アソビ presents 「唄の降る夜」コンサート”と平行して、ufotableのこれまでの制作作品を振り返ることができる展覧会イベントが徳島市・徳島県文化の森総合公園内にある近代美術館で開催されます。さらに、今回のGW期間の内容にあたるクライマックスラン(クライマックス期間)が10月10日(土)〜10月12日(日)に開催されるとのことなので、ますます盛り上がっていくのではないでしょうか。
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取材・文:瀬島卓也
雑誌「広告批評」編集者を経て、現在はインタラクティブスタジオ「1-10design,inc.」のディレクター、プロジェクトマネージャー。TVアニメ「アルドノア・ゼロ」の作品デザインのディレクションをはじめ、アニメをはじめとするエンタメ・コンテンツと広告をつなぐ案件を多く手がけている。Twitterアカウント= @sezitak
■参考リンク
マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/
ufotable