「芸能人キャスト」は、ただの客寄せキャストではない!『モンスト』のXFLAGが製作する劇場用アニメ『プロメア』

2019.05.31

 5月24日(金)より全国公開がスタートした劇場用アニメーション『プロメア』。『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』を世に生み出した監督:今石洋之 × 脚本:中島かずきのコンビが新たに放つ、完全オリジナル作品だ。制作を担当するアニメーションスタジオ「TRIGGER」と、製作としてタッグを組むのが「ミクシィ」のエンタメ事業ブランド「XFLAG」だ。コアなアニメファンも注目する『プロメア』という作品に、どう寄り添ったのか。XFLAG映像企画グループの鵜飼恵輔氏に話を聞いた。

image1

 

――XFLAGといえば、やはり『モンスターストライク(以下、モンスト)』のイメージが強いです。TRIGGERさんと組んで劇場用アニメを作ると発表された時は驚きました。

 

鵜飼恵輔(以下、鵜飼) 弊社(ミクシィ)は代表作に『モンスト』があるので、ゲーム会社としてイメージされると思うのですが、そうではないんですね。もともとSNSの「mixi」があり、『モンスト』もまた、コミュニケーションを広げる場と捉えています。つまりコミュニケーションの場の提供を、エンターテイメントの領域でどうやっていくかが、XFLAGブランドのミッションなんです。

 

――今回なぜTRIGGERさんと映画を作ることになったんでしょうか。

 

鵜飼 『モンストアニメ』を「サンジゲン」さんとご一緒していたこともあり、その流れでTRIGGERさんの『プロメア』の企画を知りました。僕らは最初から参加していたわけではなかったのですが、内容を聞いたときに、これはあまりにも壮大な作品だなと思いまして。あんなにチャレンジングな内容で、ましてやTRIGGERさんにとっては初のオリジナルの劇場用アニメ。いろいろな会社さんを集めて製作委員会を組もうとしても、多分決裁が下りないんじゃないかなと(笑)。

 

※編集部注:「TRIGGER」社と「サンジゲン」社は、共に「ウルトラスーパーピクチャーズ」社のグループ会社です。

 

――どうしてもリスクがあると。

 

鵜飼 リスクがあるし、TRIGGER作品が好きな人たちだけで委員会を構築することも難しい。そうなると、なかなか委員会が組めない、資金が集まらないからこの作品を作れない……となれば、日本の損失だと思うんですよ。そこで、僕らがお手伝いできることがあればと、弊社の「1社製作」で手を挙げたというわけです。今石洋之×中島かずき×TRIGGERという作品を、僕らが盛り上げますよという気持ちですね。映像になる前のシナリオやコンテの段階で、弊社の上層部にも刺さったことも大きかったです。

 

――鵜飼さんは、製作委員会方式のアニメの経験もおありだそうですが、製作委員会方式と今回の1社製作では、どのような違いがありますか。

 

鵜飼 製作委員会方式は、「自分の領域の出資分を回収できればいい」というスタイルになりがちな反面、自分たちで出資しているので、回収するための責任感が生まれることがメリットとしてあると思います。『プロメア』の場合は極端にチャレンジングな企画なので、そもそも製作委員会が成立せず、時期を逃すのはもったいないということがありました。それであれば弊社がリスクを取る、という判断は間違ってはいないと思います。

 製作委員会モデルが「みんなが出資しているからみんなで頑張る」のだとすると、1社製作は、そういう感情が薄くなりがちでデメリットになるとも言えます。ただ『プロメア』の宣伝会議は製作委員会ではないですが、我々XFLAGと東宝さんなど10人ぐらいの同じメンバーが毎週顔を合わせ、それを1年半くらい続けています。若干、情緒的な話ではありますが、同じメンバーでずっと一緒にいる分、熱量も上がっていく。作品への愛情もどんどん強くなる。そういったところでカバーできたとは思います。情緒に頼らざるを得ないというのはビジネスとしては今後の課題ではありますが、『プロメア』に関してはこの形が正解だったと思います。

 

image2
『プロメア』のプロデューサー、XFLAG映像企画グループの鵜飼恵輔氏

 

――XFLAGから制作サイドに対し、何か注文はされたのでしょうか。

 

鵜飼 シナリオやコンテができてくると、なんとなく映像としての規模感がわかってくる。少々心配になった部分もありましたが、でもそこで「このままではスケジュールもお金もかかりすぎるので、少し削りましょう」なんて言ったら、せっかくの熱量が全部ダメになってしまう。僕らは「ベストだと思うものを作ってください」と言い続けるだけでしたね(笑)。

 

――TRIGGERが全力で作った作品を、XFLAGが広げていくという役割分担ですね。

 

鵜飼 そうですね。『プロメア』は、今石洋之監督と中島かずきさんの集大成であり、さらにキャラクターデザインのコヤマシゲトさんや音楽の澤野弘之さんなど、日本を代表するクリエイターたちも加わって、映画としてのチャレンジや新しいことをしようという想いがある。そこが最大のポイントです。XFLAGとしては、今までのアニメファンだけじゃなく、この作品をマスに広げたいと思いました。TRIGGERさんの作品はファンに絶大な人気があるけれど、もっとマスに広がる可能性があると信じていましたから。

 

――そのための施策はどのようなものでしたか?

 

鵜飼 メインキャラクター3人の声を俳優さんに任せたいと、こちらからも提案しました。いわゆる「芸能人キャスト」というのはアニメファンは嫌がるものですが、あえてチャレンジしましょうと。ただし、ただの客寄せのキャストでは作品の魅力を損なってしまう。しっかりと中島さんの脚本を表現できる実力があり、なおかつ多くの人たちにアプローチできる人ということで、松山ケンイチさん、早乙女太一さん、堺雅人さんにお願いすることにしたんです。ここは絶対の自信がありますね。松山さんたちに声優をお願いすることは未知数ではありましたが、予定調和は面白くない。それはTRIGGERさんも理解していただけたんじゃないかと思います。
 これは「作品をヒットさせるために必要なことは全部やろう」という考えからです。ヒットするために必要なもの……環境や資金、配給会社には東宝映像事業部さん。音楽はアニプレックスさん。日本映画のアベンジャーズですよ(笑)。やれることは全部やる。ヒットさせるために必要なものはできる限り提供しますという心意気ですね。

 

image3
松山ケンイチさん演じる「ガロ」

 

image4
早乙女太一さん演じる「リオ」

 

image5
堺 雅人さん演じる「クレイ」

 

――未知数な部分もヒットさせるための仕掛け、ということですね。

 

鵜飼 作り手が楽しんでいたり、冒険している感じって、見る方にも伝わりますよね。安心感も大事だけれど、期待と余白、緊張と緩和などは、エンタメの基本だと思うんです。ビジネス的にある程度ゴールが見えるだけじゃなく、一歩踏み込んで挑戦してみないと、突き抜けない。この作品は突き抜けなきゃいけないですからね(笑)。

 

――ストーリーやキャラクターなど、内容についてはどのようにプロモーションしようと考えましたか。

 

鵜飼 これも弊社のポリシーなんですが、「ユーザーサプライズ・ファースト」を、必ず行動指針として掲げています。『プロメア』の宣伝は、普通なら前面に出すような情報を、公開まで全部隠しているんですよ。それは、この映画を初めて観ていただく時まで、視聴者の“驚き”を取っておきたいからなんです。
 女性の方ならキュンとするようなシーンや、今石監督らしいロボットが登場するアニメであることなども、公開まではまったく押し出しませんでした。『天元突破グレンラガン』が好きな人ならきっと興奮するところも、あえて言わない。サプライズは残しておきたいので、宣伝プランには気をつけていますね。

 

――宣伝する上で参考になる前例がないような気もしますが、いかがでしたか。

 

鵜飼 こういう作品は、熱量の高い人がどれだけ周りにお勧めしてくれるかにかかっていると思っています。ここ数年ロングランヒットしている作品は、観客動員がみんな同じ曲線を描いているので、それは宣伝コンセプトを考えるときに参考にしました。コアな人たちの熱量をどう上げて、それを周りに広げていくか。バイラル・マーケティング(口コミ)をどの程度、設計できるかという……。
 それを成功させるには、熱量の高いユーザーにどれだけしっかりアピールできるか。そして、その人たちが「この作品をもっと広げたい」と思ってくれる気持ちを、広げやすくしてあげるというのも、宣伝コンセプトになっています。

 

――誰かに勧めやすい状況をいかにして作るか、ということですか。

 

鵜飼 映画って観るのにお金がかかるものだし、「いいから観て」と言ってもハードルが高いですよね。場面写真やPVを見せるだけではなかなか伝わらない。そういうときのために、短編映像を作りました。公開日からの入場特典になっています。観た人がまだ観ていない人に「いいからこれを見てくれ」と勧められる。最初に観に来た人って宣伝隊長だと思うんですよね。その人たちが宣伝しやすい宣伝ツールを用意してあげようと思っています。

 

※編集部注:第一弾入場者特典の短編映像についてはこちら
https://promare-movie.com/news/news-343/

 

――その短編は、本編に対してどういう立ち位置なんですか?

 

鵜飼 公開日から入場者特典として見られる第1弾の短編は、主人公・ガロの前日譚です。どうして彼が「バーニングレスキュー」になったのか。「マッドバーニッシュ」って何なのか。それらが10分でわかるようになっています。本編映像を使わず10分もある、完全新作。ダイジェストでもありません。さらに実は入場特典の第2弾として、びっくりするようなものを用意しています。まだ今は言えないのが残念ですが(笑)

 

image6
熱量の高い人が周りに作品を勧めやすい宣伝施策を考え、それが短編制作につながった

 

――『モンスト』と今石監督×中島かずき作品とのコラボも予定しているそうですね。

 

鵜飼 普段『モンスト』でコラボイベントをする時って、もともとかなり有名な作品とコラボすることが多いんです。その場合は、コラボする作品を知っているユーザーのためだったり、『モンスト』をやっていて、かつその作品も好きな人へのサービス的な位置づけが大きい。ですが『プロメア』はオリジナル作品なので、どちらかと言うと『モンスト』ユーザーに、「XFLAGがプロデュースしているこの『プロメア』は間違いなく刺さるいい作品だからぜひ観てほしいんです」という提案でもありますね。
 とは言え押し付けたくはないし、ゲームとして楽しんでもらうことが一番なので、今回は過去の今石×中島作品である『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』、『プロメア』とのイベントになります。今までにないイベントだと思いますよ。
 嬉しいのは、弊社でこのコラボを担当している人たちが、『グレンラガン』も『キルラキル』も『プロメア』も大好きで、楽しみながら作っていることです。「このタイトル儲かるからやろう」なんて考えではありませんし、どのキャラクターをどうやって出そうかって話ですごく盛り上がっていますからね。ちゃんとわかっている人のこだわりが表現されていると思うので、それは『モンスト』のプレイヤーにも伝わるんじゃないかなと思っています。

 

――お話を聞いていると鵜飼さんは、クリエイターをリスペクトし、ユーザーの気持ちも非常にわかる。そんなスタンスのように思います。

 

鵜飼 僕はユーザーファーストを徹底しています。ユーザーを楽しませたい → 楽しませるためにはクリエイターが楽しんでいなきゃいけない → クリエイターが楽しく仕事をするためには、ちゃんと儲からないといけない。この順番でしか物を考えていないんです。製作のポジションって、そういうものだと思っています。
  作り手がクリエイターで、受け手がユーザーなら、製作は送り手です。クリエイターとユーザーの間をつなぐのが仕事。両方の希望に耳を傾け伝えて、送り出す。そういう視点はこれからも持ち続けたいですね。
(取材・執筆/大曲智子)

 
 
 


■作品情報
劇場用アニメーション『プロメア』大ヒット上映中!

image7

 


●キャスト
松山ケンイチ/早乙女太一/堺 雅人/ケンドーコバヤシ/古田新太 ほか
●スタッフ
原作:TRIGGER・中島かずき/監督:今石洋之/脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:コヤマシゲト/美術:でほぎゃらりー/美術監督:久保友孝/色彩設計:垣田由紀子
3DCG制作:サンジゲン/3Dディレクター:石川真平/撮影監督:池田新助/編集:植松淳一
音楽:澤野弘之/音響監督:えびなやすのり/タイトルロゴデザイン:市古斉史
配給:東宝映像事業部

 


公式WEBサイト:https://promare-movie.com/

 


©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

 
 
 

———————————–
取材・執筆/大曲智子
フリーライター。映画、アニメ、俳優などに関するインタビュー・執筆を得意とする。新書『ガルパンの秘密~美少女戦車アニメのファンはなぜ大洗に集うのか~』取材・執筆(共著)、『この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック』取材・執筆。「+act.(プラスアクト)」、「声優男子。」、「VOICE Newtype」、「VOICE stars」、「NHK大河ドラマ・ガイド」、「livedoorニュース」などに執筆。
http://o-magazine.hateblo.jp