音楽配信ビジネスの新たな可能性を探る――。 匿名チームによるクロスメディア「nowisee(ノイズ)」とは何か

2015.10.29

“「生きる意味を問う」ことをテーマとし、現代を生きるすべての若者に向けて発信する”のが「nowisee」のコンセプト。物語の舞台は渋谷となっている。

 

2015年8月8日8時8分8秒。
音楽を主軸に、映像、小説、コミック……複数のメディアを同時展開させるクロスコンテンツプロジェクト「nowisee(ノイズ)」が突如としてスタートし、SNS世代のコアな音楽リスナーを中心にじわじわと注目を集めています。ホームページの開設以降も、“8”の付く日に楽曲、ミュージック・ビデオ(MV)、電子ノベルが定期的に配信されており、YouTubeや渋谷の街頭ビジョン・コンビニ有線をはじめそのプロモーション活動も活発化。一方で、「nowisee」に関わるクリエイターの素性は現在も明かされておらず、多くの“謎”を保ったままプロジェクトは進行中です。

nowisee『バイブレーション』#01/24
8月8日公開。「バイブレーション」はピアノの音色が耳に残るエレクトロなロック・チューン。また、楽曲はiTunesなど各配信サイトでも販売中(1曲250円)。

 

24ヶ月連続での楽曲リリースを宣言

 

「nowisee」は、2015年8月から、楽曲を24ヶ月連続でリリースすることをすでに明言しています。現在(10月28日時点)までに、公式アプリでは楽曲とそのMVが3曲配信されているほか、楽曲のバックグラウンドと繋がる電子ノベル「52Hz」が、プロローグも含めて5話分配信されています。この「nowisee」公式アプリは10月8日に公開され、YouTubeではショートVer.しか閲覧できないMVのフルVer.などのコンテンツが無料で楽しめます。どのコンテンツもハイクオリティな仕上がりで、特に楽曲はプロフェッショナルな制作体制を感じさせる贅沢なサウンドであるのが窺えます。今回は、プロジェクトの運営・プロモーションに携わるメンバーの協力を得て、新世代の音楽配信サービスを謳う「nowisee」の本質とその魅力に迫ります。

 

nowisee_02
1ヶ月に1度更新されているノベル「52Hz」では、MVにも登場する女子高生「アイ」が主人公として登場。生と死と時間を超越した世界に迷い込んだ彼女が、失われた記憶を求め、辿りつく真実とは――。
「nowisee」 オフィシャルサイト http://www.nowisee.jp

 

 

制作チームは6人組、メンバーの総売上の合計は1500万枚以上

 

「nowisee」は、女性1人、男性5人の計6人で構成された制作チームで、プロデュース、歌、トラックメイキング、楽器演奏、エンジニアリング、ストーリーメイキング、映像制作をすべて自分たちで完結させるスタイルを採っています。これまでに公開されている数少ない彼らの情報を総合すると、プロのミュージシャン/音楽制作者として充分な実績を残すメンバーの集合体であり、CDの総売上は約1500万枚を超えるとのことです。ですが、CDの売上が大幅に減少し、音楽シーンにおける既存のビジネススキームが急速に崩れていく中で、「外見や実績に囚われず、鳴らす音楽の力だけで勝負したい」との思いが6人の中で一致。今回のように匿名性を維持し、純粋に音楽から広がる世界観だけを追求する活動に繋がったようです。

 

nowisee『ハードボイルド』#02/24
MVの第2弾「ハードボイルド」は疾走感に溢れたサウンドが、都会を駆け抜けるMVとマッチ。

 

nowisee『bluemoon』#03/24 (short version)
第3弾「bluemoon」はこれまでと異なり、ミディアムテンポで空間を感じさせるバラードとなっている。YouTubeでのMVによるプロモーションのほか、街頭ビジョンやコンビニでも楽曲が流され、自然と耳に入るような仕掛けがなされている。「bluemoon」フルVer.はアプリで視聴することができる。

 

 

大手レコード会社などが彼らの音楽性を高く評価し、全面的にバックアップ

 

「nowisee」の活動を全面的にバックアップしているのは、AKB48など人気アーティストを多数擁するレコード会社「キングレコード」をはじめ、業種の異なる大手3社。彼らが共同で進行管理やプロモーション、アプリ制作・運営を手掛けています。3社共に、nowiseeメンバーが作り上げた楽曲や映像の高いクオリティに驚き、その世界観やコンセプトに強く共感して参加。以降は、匿名性を維持しながら、セルテイストを利用したMVをメインビジュアルとしてプロモーションを構築していくことになりました。

 

 

サブスクリプション方式の音楽配信サービスがライバル

 

公式アプリ「nowisee」。アプリをひとつのアルバムと捉える一方で、楽曲、MV、ノベル、コミックすべての要素が揃ってはじめて完結する「音楽」を追求している。

公式アプリ「nowisee」。アプリをひとつのアルバムと捉える一方で、楽曲、MV、ノベル、コミックすべての要素が揃ってはじめて完結する「音楽」を追求している。

「匿名性を用いた音楽的なチャレンジ」に加え、「nowisee」はSNS世代における次世代型の音楽配信ビジネスを模索する意図もあります。特にApple Music‎、Google Play Music、AWAに代表されるサブスクリプション方式の配信サービスとは異なる、新たな音楽ビジネスを構築することをひとつの目標にしています。そこで考えられたのが、楽曲やノベルが配信されるアプリを「アプリアルバム」と称し、ひとつのアルバムとして捉える手法です。現在は無料で公開されている本プロジェクトの公式アプリですが、2016年1月以降は有料配信の予定だそうです。

 

【App Store】https://itunes.apple.com/us/app/…
【Google Play】https://play.google.com/store/apps/…

 

 

インスト広告が嫌がられない、稀有な反応

 

スタートから3ヶ月ほどが過ぎた「nowisee」ですが、初回の8月に配信された「バイブレーション」は再生回数が20万回に迫る勢いを見せ、9月に配信された「ハードボイルド」の再生回数は約15万回、10月配信分の「bluemoon」(ショートVer.)もすでに再生回数が14万回を超えています。YouTubeでは本プロジェクトに触れてもらうためのインスト広告が出稿されていますが、通常のインスト広告のように、ユーザーからの拒絶反応がほとんどないのが意外であった、とのこと。今後も、より多くの方にnowiseeの音に触れてもらうための様々なプロモーション展開を練っているということです。まだ開始されていないコミックも、第一弾として人気アプリ「comico」とのコラボ企画を発表、公式コミックについても鋭意準備中とのことで、プロジェクトのスケールはさらに大きな広がりを見せていくことでしょう。その中で楽曲の背景にある様々な謎も明かされるはずですので、24ヶ月間、まったく目が離せないプロジェクトになりそうです。

nowisee_05
10月8日のアプリ公開に合わせて、作品の舞台となっている渋谷スクランブル交差点でビジョンジャックも行われました。SNSや口コミで情報を知った若者も多く駆けつけたようです。

 

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取材・構成:公森直樹
編集プロダクション「メガロマニア」所属の編集者/ライター。ガンダムシリーズを中心に、アニメ系記事の編集・執筆を手掛ける。主な寄稿誌に隔月誌『Febri』(一迅社)など。取材・構成・執筆を担当した『ガッチャマン クラウズ インサイト キナコデザインワークス』(一迅社)が発売されました。