「上映中はお静かに」——映画館での映画鑑賞では当然とされてきたマナーをくつがえす流行が、2016年の日本で起きています。それが、「劇中のキャラクターたちを観客みんなで応援する」というコンセプトのもと、声を出して映画を楽しむ「応援上映」。観客たちは歓声や掛け声をめいっぱい上げ、サイリウム・ペンライトを振り、ときにはコスプレをして、まるでライブイベントのように一回一回の映画を楽しんでいます。
そんな「応援上映」ブームの火付け役となり、半年ものロングランを達成しているのが『KING OF PRISM by PrettyRhythm(以下キンプリ)』です。
男性アイドルの卵たちの汗と努力、切磋琢磨を描く本作は、じつは女児向けアニメ『プリティーリズム』シリーズのスピンオフ。本来1ヶ月で上映を終える予定だったそうですが……。それまでの「プリティーリズム」シリーズでも行っていた応援上映が始まったことをきっかけにリピーターが増え、「キンプリがすごかった」「応援上映がすごかった」というレポマンガでSNSが連日盛り上がるように。
少年たちが歌い踊りながら全裸になったり、ハートが無限にとびかったり、突然夜空から電車がやってきてハリウッドに向かったり、ついにはドラゴンまで出現したり……などなど、アイドルたちの熱いダンスにあわせてとにかく奇想天外な演出がくりひろげられる「プリズムショー」。事前にその概要を聞き及んでいても、実際に観ると「え、ちょっと待って!?」と思考が停止し、しかし鑑賞後には異常な多幸感だけがインプットされるという破滅的な麻薬性を秘めています。そんな麻薬性と、劇場全体でめいっぱい叫びツッコミを入れながら鑑賞できる応援上映というシステムが絶妙にマッチし、「キンプリ」「応援上映」という言葉は、一気に知名度を高めたのです。
作品の興行収入は6億円を突破、ついにその快進撃がワイドショーなどでも取り上げられるまでになりました。そして、「そこまでのムーブメントになっていたのか!」と驚きの方にこそぴったりの入門書が発売されました。それが『KING OF PRISM by PrettyRhythm 応援BOOK』。キンプリという作品の紹介をしながら、その盛り上がりと切っても切り離せない存在である「応援上映」のエッセンスをぎゅっと詰めこんだ一冊です。
バラの造花やセロリの食品サンプルといったキンプリのストーリーに合わせた応援上映持ち物ガイドや、「バーニング!」「国立屋!」など各シーンでの掛け声を紹介するコーナー、キャラクター図鑑に、スタッフインタビュー、そしてアサダニッキさん、カレー沢薫さん、田中圭一さんなど多彩な顔ぶれによる“応援上映“応援マンガまで、まるでプリズムショーのようにてんこもりな内容になっています。
「本編の内容が載っていたら、ネタバレになって楽しめないんじゃないかな?」という方もご心配なく。どんなに前情報をインプットしていってもプリズムショーの音と映像の洪水に翻弄されてしまうのが「キンプリ」という作品であり、本来は完全に同じ内容であるはずの「映画」というエンターテイメントに、ライブイベントの「一回性」を生み出してリピート欲に訴えかけるのが「応援上映」という仕組みなのです。
実際驚いたのが、リピーターとなっているのが従来のプリリズファンやアニメファンだけではないこと。むしろ筆者のまわりではとくにジャニオタがハマっており、「ちょうど推しているアイドルの現場が少ない時期にふらっと行ってみたらどっぷりハマってしまって……いつの間にか10回は劇場に足を運び、今じゃすっかりオバレ(※)ファンです」「歓声の大きさによって、同じダンスバトルのシーンでも、今日はこっちの子が勝つんじゃないか、いやこっちの子が勝つんじゃないか、とジャニーズのコンサートさながらの臨場感が楽しめる」「セロリを買っていったり、ジャニーズを応援する時みたいにうちわを作っていったり。映画というよりライブですね」などと語っていました。ジャンルにとらわれずに「エンタメ」を楽しみたい貪欲な女子たちがキンプリの魅力にハマり、さらに応援上映という文化を発展させているのです。
※キンプリでフォーカスされている男性アイドルグループ「Over The Rainbow」の愛称。
もはやキンプリ以前とキンプリ以後では、映画の鑑賞のあり方が変わってしまったと言っても過言ではないでしょう。
応援BOOKとともにDVD、Blu-rayも発売されたにもかかわらず、なんと劇場での4DX版の上映も始まったキンプリ。ますます盛り上がっていくだろうその熱狂の度合い、経済効果の度合いを、応援BOOK片手に体験してみてはいかがでしょうか?
◼︎参考リンク
「KING OF PRISM by PrettyRhythm」公式サイト
『KING OF PRISM by PrettyRhythm 応援BOOK』
http://www.ohtabooks.com/publish/2016/06/21102845.html
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文・平松梨沙
編集者/ライター。BL・女性向けマンガ関連を中心に取材・執筆。執筆参加に『はじめての人のためのBLガイド』