丸井グループがアニメを使った企業と社会の新たなつながりに挑む。国内大手の映画会社・東宝がタッグを組んでこれに協力する。そんな野心的なプロジェクトが、明らかになった。 2019年3月7日、東宝本社にてオリジナルショートアニメ『そばへ』がメディアに発表された。作品は丸井グループが掲げる「インクルージョン」=「すべての人に」をテーマにしたものだ。
作品の舞台は雨の日。雨が好きだったり、苦手だったりするキャラクターたちが、小さなストーリーを繰り広げる。タイトルの『そばヘ』も、「天気雨」のような自然現象を指す。キャラクターたちの関わりに、「インクルージョン」のメッセージを託す。セリフは少なく、牛尾憲輔による音楽と『宝石の国』で注目を浴びたCGアニメスタジオのオレンジによる映像が爽やかな印象を残す。
プロジェクトの中心である丸井グループの青木正久執行役員は、「単なるアニメCMではなく、ひとつの作品」と話す。
丸井グループは自社店舗を活用したアニメグッスの販売、イベント企画などに近年は力をいれている。しかし『そばヘ』のアニメ本編には、丸井グループの商品もサービスも、ロゴもでてこない。映像は企業そのものを直接伝えるのでなく、企業が届けたい理念をアニメを通じて世の中に広げる。ぱっとの印象で広告と思われがちな企業によるショートアニメだが、そこに一線を画したのが『そばへ』である。プロジェクトは実際にアニメを通じた社会貢献を意図したところもある。今回のプロジェクトは、次世代の才能を求めたものだという。監督の石井俊匡は31歳、話題作『未来のミライ』の助監督は務めたが、今回が初監督作品だ。東宝で「TOHO Animation」も統括する大田圭二取締役は、「第2弾、第3弾も目指したい。両社で面白いことが出来れば」と、プロジェクトの今後の展開にも期待する。
今回の両社のつながりは、もともと丸井グループによるコンペティションだったという。そこに名乗り出たのがオレンジの和氣澄賢プロデューサーと東宝の武井克弘プロデューサーのタッグだ。二人の熱い想いと「インクルージョンへの共鳴」が、本企画の採用につながったという。
それだけに約2分間と決して長くない『そばへ』は作り込みには驚かされる。記者会見では、米国アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート『ダム・キーパー』に参加した長砂賀洋によるコンセプトアート、『未来のミライ』作画監督であった秦綾子によるキャラクター設定も紹介された。色鮮やかに雨の日の風景を描いた何枚ものコンセプトアート、本編にないシーンや画面に映ってない部分も細かに描き込まれた秦綾子の設定も素晴らしい。
さらに作品を魅力的にしたのが、ヒロインの声に起用された福原遥だ。『クッキングアイドル アイ!マイ!まいん』で活躍、『キラキラ☆プリキュアアラモード』ですでに経験が充分。それでも今回は、セリフは一言。さらに福原の声が牛尾憲輔の音楽が混じりあう、音楽として声という難しいもの。福原はこれを「現場にいって自然にやろうと思った」「セリフが少ないので思いをこめた」としてやり遂げた。石井監督は「声の可愛さがあって、その可愛さが地についている」と大満足。「息づかいや間の取り方は全て任せた」と話した。
『そばへ』はインターネット配信や、今後は劇場での映画上映の前などで作品を紹介していく。丸井グループが大切にしたという「インクルージョン」のメッセージが世の中に広がっていきそうだ。
『そばへ』
声: 福原遥
監督: 石井俊匡(『未来のミライ』助監督)
音楽: 牛尾憲輔(『聲の形』『DEVILMAN crybaby』『リズと青い鳥』『モリのいる場所』)
キャラクターデザイン: 秦綾子(『未来のミライ』作画監督)
コンセプトアート: 長砂賀洋(『ダム・キーパー』『ムーム』)
制作: オレンジ(『宝石の国』)
制作プロデューサー: 和氣澄賢(『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』)
プロデューサー: 武井克弘
製作: 丸井グループ
【公式サイト】https://www.0101.co.jp/sobae/
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取材・数土 直志 (ジャーナリスト)
メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆をする。証券会社を経て、2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、国内有数のサイトに育てた。2016年7月に「アニメ! アニメ!」を離れる。代表的な仕事に「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』(星海社新書)。