今年1月、トーハン本社にて「第16回 JAPAN EXPO」出展説明会が開催された。説明会ではJAPAN EXPOの日本事務局のファブリス・ビュオン氏がイベントの歴史やコンセプト説明などのプロモーションを行ない、株式会社トーハン・小泉氏が出展サポートプランについての説明を行った。本記事ではジャパンエキスポ創立者のトマ・シルデ氏の代表としてビュオン氏とトーハン海外事業部の外川明宏氏の独占インタビューを併せて掲載する。「クールジャパン」の代表格であるJAPAN EXPOの現状を知っていただきたい。
JAPAN EXPOとは毎年7月初頭にパリで開催されるヨーロッパ最大の「日本文化とエンターテイメント」のフェスティバル(今年は年7月2-5日、パリ・ノールヴィルパント展示会会場にて開催予定)。昨年は5日間で24万人を動員した。展示内容はアニメやマンガなどのカルチャーから、音楽やファッションのポップカルチャー、武道や料理、観光アピールなど伝統文化まで多岐にわたる。毎年、日本からマンガ家やアニメ監督、ゲームクリエイターらがゲストで招待されるほか、アイドルやアーティストのステージも数多く行われる。もともとは1999年にスタートしたファンイベントを母体としており、年を追う毎に規模が拡大し、2007年には運営会社を法人化。2011年からは日本の総務省が後援をしているほか日本の外務大臣賞の受賞経験もある。2014年の実績は出展ブースが688(うち日本から約130)、参加した記者は1200人(うち日本から103人)と、注目度も高く近年は「クールジャパン」の代表格として国内報道されることも多い。
ビュオン氏はこの日訪れた企業人に向け、JAPAN EXPOへの参加の方法を説明する。ひとつは「出展」だ。企業の「出展」の仕方には2つのパターンがあり、ひとつは日本駐在の事務所に直接申し込むこと。日本語での対応をしてくれるが展示品や商品の搬送などは自ら行う必要がある(応募先は公式サイト参照)。もうひとつはオフィシャルパートナーであるトーハンを通じての方法で、これらはさまざまなサポートを受けられる(後述)。
また個人単位での出展も受け付けており、伝統芸能関係は「美研インターナショナル」が、アマチュアクリエイターはEJC(ユーロジャパンクロッシング)が相談を受け付ける。飲食ブース出展についてもEJCがサポートする。このほかスポンサーという形もあり、昨年までは資生堂がコスプレイベントのスポンサードをしていた。
そしてコンテンツ(ライブパフォーマンス)での参加がある。最大15000人収容のメインステージのほか、テレビゲームステージやライブハウスなど規模と目的に応じてさまざまなタイプが用意されている。これらは実績やビデオ等々の書類をもとに運営サイドが選考する。
第16回JAPAN EXPOは2015年7月2~5日の4日間開催で、24.5万人の来場者を見込んでいる。この他のデータなどは、JAPAN EXPO日本語公式サイト(※1)をご覧頂きたい。同サイトではPR冊子をpdfにて配布している。
つづいてはトーハン・小泉氏が出展募集の説明を行った。出展に関する効果はフランス国内でのマーケティングやプロモーション、取引先の開拓の他、日本国内への広告宣伝効果を挙げる。一方で困難なことは外国語でのコミュニケーションや会場への貨物配送、外貨支払いや消費税・関税の納付などがある。これらをサポートするのがトーハンだ。スペースについて大きさや飲食の有無までさまざまな出展プランを用意している。出展申し込み締め切りは3月13日(金)までとなっている。(資料や料金の問い合わせなど、詳しくは脚注*2まで。)
さらに説明会の後、ビュオン氏とトーハン・海外事業部マネジャーの外川明宏氏が当サイトの単独インタビューに応じ、JAPAN EXPOの魅力についてさらに詳しく説明をしてくれた。
−−今年は4日間開催で、5日間開催だった昨年を上回る来場者目標を掲げています。現在の来場者について運営側はどのようにご覧になっていますか?
ビュオン:毎年増える一方ですね。当初はアニメやマンガだけを扱っていたのですが日本の文化全般を紹介するイベントになって、(来場者)「数」だけではなく「種」、日本に興味のあるいろいろな方に来て頂いていると考えます。たとえばパリ市内で寿司を食べて美味しいと思った人がJAPAN EXPOを知ると「じゃあ行ってみようか」となることが増えていると思います。家族連れも増えています。
外川:マンガやアニメだけではなくお祭り太鼓のブースにも家族連れが行ったりするんです。入り口としてよく取り沙汰されるのは確かにマンガやアニメなのですが、実はもっと広がっていっていると思います。僕らも入場者数の増大はもっと続くと思っています。
−−ポップカルチャー目当てで来られた方も、武道や伝統文化のコーナーへ興味を示すのでしょうか?
ビュオン:はい。これはすべてが同じ会場にあるということが大きいと思います。来場者は単にグッズを買いたいという動機だけではおそらく来ていないはずです。今なら通販で事が足りますから。やっぱりJAPAN EXPOは「祭り」なんです。電車を降りた時からもうプチ日本にいる感覚で、会場に入ったら日本のものが買える、遊べる、食べることができるし、武道の体験もできる。ひとつの会場にあるからすべてが繋がっていると思います。僕達は「イベント」という呼び方をできるだけ避けようとしています。本当を言うと「フェスティバル」=祭りと言いたいし、会場でインタラクティブな体験をしていただきたいと思います。
外川:最初はマンガ目当てで来た方も、会場を見て回ると武道のエキシビジョンを見たりして、興味を広げるということがある。意外なところではバッティングセンターやお化け屋敷が人気ですごい行列ができていたりします。綺麗にここからここまでがアニメだと分かれているのではなくゴチャッとしているのが魅力なんだと思います。
ビュオン:いつもどこかで何かが起きている。去年は(5日間開催で)625時間分のプログラムがありました。どの時間に来てもどこかで何かが起きているわけです。
外川:私はこの事業部で20年近く仕事をしていて、他の海外の日本イベントも見ています。当然どこでもアニメやマンガは強いわけですがJAPAN EXPOだけが他のいろいろなものが詰め込まれて溶け込んでいる。しかもこちらは立ち上げが現地の出版社等のしっかりしたライセンシーなので、自分たちのビジネスを展開するために必死に人を集めようとする。それらが咬み合ってここまで大きくなったんだと思います。
−−フランス現地ではJAPAN EXPOはどのような位置づけなのでしょうか?
ビュオン:恐らく来場者はフランスにおけるエンターテイメントのトップ5に入っていると思います。テレビ局やフランスのメディアにも普通に採り上げられています。去年はくまモンが、大手新聞ル・モンド紙の一面に掲載されました。
−−フランスでアニメなどの文化を受け入れたりJAPAN EXPOに来場するのはどんな方なのでしょうか?
ビュオン:ちょっと変わった人かもしれませんが、日本ほどの偏見はないと思います。
外川:かつて日本のアニメで育った層が親になり2世代で来場しているケースも起きています。
−−フランスにおける近年のヒット作は?
ビュオン:やはり「ワンピース」、「NARUTO」、「進撃の巨人」などが人気ですね。
外川:インターネットの登場により「時差」がなくなっていて、日本で流行っているものが流行っている。
ビュオン:クランチロールのようなストリーミングサービスもありますし、DVDもすぐにローカライズされます。マンガは今やあちこちの本屋に置いています。
−−コンテンツ系以外で、たとえば食文化についての反応はいかがでしょうか?
ビュオン:日本酒がプチブームになっていて、国際的な発展をしている獺祭(だっさい;山口県岩国市の酒造メーカー旭酒造のブランド)さんも2年前までJAPAN EXPOに出展していました。企業から見てJAPAN EXPOはこれ以上のPRプラットフォームはないと思いますのでぜひどんどん使っていただきたい。そのため出展が単発で終わっては残念なので会場にBtoBセンターを設けています。
外川:ある飲料メーカーによると日本と違うサンプリングが取れたりするそうです。課題としてあるのは日本企業の拠点が少ないところで、継続してマーケティングを行ったりしていただければまたもっと新しい事ができるのではないかと思います。
−−コンテンツについてはプロモーションの場になり、メーカーにとってはテストマーケティングの場にもなるわけですね。
外川:富士フィルムのインスタントカメラの「チェキ」が非常に売れたと聞きました。現地で実際に写真を撮りながら売ることができるので非常にいいプロモーションになったそうです。
ビュオン:twitterなどでその場で「こういう面白いものがあるよ」と共有するのでそれを見た人が翌日に来たり。
外川:シャチハタさんが講談社さんとコラボして「フェアリーテイル」のスタンプラリーを行なって非常に人気でしたね。日本のハンコは非常に良く出来ているので、スタンプで絵を描くのに適しているわけです。
ビュオン:逆もあって、JAPAN EXPOで話題になった映像を日本に持ち帰って逆輸入のプロモーションに役立てたりします。これはアーティストさんに多いですね。演歌歌手の方で新人賞にノミネートされた方や、後にチャート1位を取るアイドルのメンバーが2年前に来ていたこともありました。あとはゆるキャラのブームがスゴい。くまモンは2年連続で来ていて、会場中がくまモンのマスクでいっぱいになったり(笑)。ふなっしーも去年に来て成果がありました。DVDやカレンダーが売れました。
外川:沼津のご当地アイドルの方が来て、毎日同じ時間にステージをやっていたら、そういう情報がリツイートで知られて日を追う毎にどんどん増えていったんです。最初は知られていなくてもJAPAN EXPO内でスターが生まれることにもなって、そういうのが面白いですね。
ビュオン:僕らはJAPAN EXPOマジックと呼んでいます(笑)。
−−それは現地ならではの経験ですね。
ビュオン:今年はぜひ行ってみてください。実際に行ってみると「なんじゃこりゃ」って思いますよ(笑)。
外川:日本人からすると「こんなに日本が好きでありがとう」って思いになりますよ。去年は初音ミクのプロモーションをしたり、一昨年は「エヴァンゲリオン」と一緒に企画展示をやったりしました。きゃりーぱみゅぱみゅが来たり、ふなっしーが来たりと、今、日本で流行っているものと一緒にJAPAN EXPOが動き出しているところが面白いと思います。
JAPAN EXPOがこれだけ急成長を遂げたのにはいくつかの理由が挙げられる。30年以上前から日本のアニメ・マンガのファンの種が蒔かれていたことが現在の日本アニメブームに対応し、イベントの下地を作った。また、JAPAN EXPOがこれらの分野にとどまらず、その他のポップカルチャーや日本食、伝統文化に目を向けたことも来場者の裾野を広げた一因だ。これは古くジャポニズムの時代から両国間の文化的交流が下地となっている。その結果として、JAPAN EXPOはワールドプレミアの場や、EUマーケティングの玄関口になったり、あるいは日本の観光アピールと、日本企業側にとっても魅力あふれる総合的なフェスティバルとなった。かつては現地法人が中心となったが現在は出展サポートがあることで、日本国内からより新鮮な日本文化を届けることができる。この説明会も追加席が用意されるほどの賑わいを見せ、今年も出展側と来場者の双方からの盛り上がりが予想される。
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※1 JAPAN EXPO 日本語公式サイト
http://nihongo.japan-expo.com
mailto: [email protected]
※2 トーハン海外事業部
http://www.tohan.jp/works/oversea.html
mailto: [email protected]
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インタビュー・構成:日詰明嘉
フリーライター。アニメーション記事を中心に執筆。監督やプロデューサー、作画・3DCG、声優・音楽ライブなどアニメ製作に関わる全般を取材する。主な執筆媒体は「オトナアニメ」、「月刊Newtype」、「リスアニ!」、「声優グランプリ」などの雑誌のほか、オフィシャルムックやパンフレットなど多数。