VR技術の「驚き」を気軽に――6種のアクティビティが体験できる VRエンターテインメント研究施設がお台場に登場

2016.05.10

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■VR技術の最先端を、気軽に体感できる施設「VR ZONE Project i Can」
3Dの立体映像/立体音響を用いて架空の空間を作り出し、まるでその場にいるかのような体験ができるVR(ヴァーチャル・リアリティ=仮想現実)技術が、にわかに注目を浴びています。3D映像技術とヘッドマウントディスプレイの進化のみならず、重力や衝撃をリアルに伝える体感装置との強い連動性も含め、体験者に「驚き」を与える状況が整いつつあるのです。漫画喫茶にもヘッドマウントディスプレイと連動したVR設備(自遊空間「VR THEATER」)が導入されたほか、アニメ「ソードアート・オンライン」の世界観をVRで再現した体験イベント「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」が実施されるなど、企業プロモーションの一環としての運用も進められています。
そんなVRへの期待が高まる中、お台場の「ダイバーシティ東京プラザ」内に、VRエンターテインメント研究施設が誕生しました。バンダイナムコエンターテインメントが運営する「VR ZONE Project i Can(以下、VR ZONE)」です。4月15日から半年間限定でオープンするこの施設は、最新のVR技術を気軽に体験してもらうことを目的としたものです。
「VR ZONE Project i Can」では、ホラー系、リアルシュミレーター系、高所体験など、6種の多彩なVRアクティビティが用意されており、あらゆる角度からVRの現状を体感できるものとなっていました。映像面においても、フレームレートが90fps(PS4のソフトでも60fpsが主流)で制作されており、世界観に没入できる美麗かつ滑らかな動きを可能としているのが特徴です。そんなすべてのアクティビティのポイントを、実際に体感した筆者の感想を交えてリポートします。

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『VR ZONE Project i Can』ロゴ
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 


■特色の異なる6種のVRアクティビティをレポート!
●極限度胸試し「高所恐怖SHOW」
体験料:1,000円(930バナコイン)※バナコイン……バンダイナムコIDが提供する仮想通貨。施設内でチャージ可能。

 

 今回用意されたアクティビティの中でも、もっとも体感型と言えるのがこの「高所恐怖SHOW」。高層ビルの40階(地上200m相当)からせり出した板に乗り、板の先端部分に逃げ出した猫を助けに行くという内容です。VRゴーグル、ヘッドフォンというVRの標準装備のみならず、専用のシューズ、グローブも装着することで、全身の動きが画面内に反映されるのがまず驚きです。しかも、映像はエレベーターで高層階に上がっていく部分からはじまるため、その臨場感は非常に高いものです。猫を救うべくせり出した板に乗るのですが、360度映像に囲まれ、またヘッドフォンで聴覚も現実と遮断されているため、逃げ場がありません。慎重に足を運び2~3分程度で猫の救出に成功したのですが(足と手は映像上で表示されています)、一度真下を見てしまったため、膝が大きく震えました。高所恐怖症の人はおそらく厳しいアクティビティですので、体験希望者は注意の上参加しましょう。

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VRゴーグル、ヘッドフォン、グローブ、シューズを装着後、板の上を歩く。抱えている物体は猫(映像上)。体験者の位置を確認するカメラが四方に設置されている。

 


●VRシネマティックアトラクション「アーガイルシフト」
体験料:700円(651バナコイン)
戦闘兵器によるスピーディーな空中戦が楽しめるアクティビティ。原案と監修は『鉄拳』の原田勝弘氏が手掛けているほか、世界観設定・シナリオをアニメ制作会社のプロダクションI.Gが、メカニックデザインを『機動戦士ガンダム00』の柳瀬敬之氏が、映像監督を荒牧伸志氏が担った豪華布陣となっており、SFとしての奥行きにも優れた作品です。体験者は最新有人兵器「ルシファー」に乗り込み、AIヒューマノイド「アイネ」と共に戦場に出るのですが、まず格納庫のシーン(コクピットがルシファーに接続されるシークエンス)から十分にリアリティが感じられる作りです。戦場でのバトル体験ももちろんですが、格納庫から降下する場面や今にも手に触れられそうな「アイネ」のクオリティなども、コンテンツを魅力的にしていると言えるでしょう。戦闘シーンは2本のスティックと射撃用のボタンを使って操作しますが、目線を目標(敵機)に合わせてロックオンするシステムが採用されており、より直感的にバトルに没入できるようになっていました。

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「アイネ」と共に映し出されるコクピット内の映像。「アイネ」の3D立体表現は驚くほど精巧で、傍にいるかのようであった。

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「アーガイルシフト」の筐体。VRゴーグル、ヘッドフォンを装着し、2本のスティックで操作する。

 


●ホラー実体験室「脱出病棟Ω」
体験料:800円(744バナコイン)
VRを駆使したホラーアトラクション。体験者は電動車椅子型の筐体に乗り、レバーを使って車椅子を操作するシステムです。舞台となる閉鎖病棟は総じて暗く、懐中電灯で足元を照らしながら進む必要があります。特徴として、2~4名での協力プレイが可能となっており、ヘッドフォンを通してボイスチャットを行うことができます。これなら多少恐怖が和らぐのかな……と思っていたのですが、これが見当違いでした。むしろ、協力者の叫び声があらぬタイミングで聞こえてくるので、より恐怖が増幅されるのです。また、通常のお化け屋敷とは異なり、視覚と聴覚をゴーグルとヘッドフォンで抑えられているほか、車椅子移動のため身体の自由が奪われているのもポイント。現在は1ステージのみですが、今後、複数のステージが追加されるとのことで、ホラー好きにはたまらないアトラクションかもしれません。ちなみに筆者は、5分程度でギブアップしました(通常は12分間体験できる)。

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光量が弱く、懐中電灯で照らさないと前が確認できない画面設計。だが、急に襲いかかるゾンビたちに絶叫は必至。

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右が車椅子型の座席。左側にレバーが、右側に懐中電灯が設置されている。ヘッドフォンにはマイクがついており、ボイスチャットが可能。

 


●VR 鉄道運転室「トレインマイスター」
JR東日本商品化許諾申請中
(c)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
体験料:700円(651バナコイン)
JR山手線沿線を立体的に再現し、電車の挙動や衝撃も含めて体感することのできるリアルシュミレーター。レバーの位置や操縦方法は限りなく本物に近いものとなっているほか、後ろを振り向けば車内が、横を見ればホームで待つ乗客の姿まで視認できるようになっており、強いこだわりが感じられます。速度が増すたびに高くなっていく走行音や、駅に近づくに連れて伝わるホームの臨場感なども含め、サウンド面も丁寧に作り込まれているのがわかりました。また、3D立体で表示された車掌によるガイドにより、操作自体は誰でも習得できますが、ブレーキのタイミングが難しく、一度ATSを作動させてしまいました……。走行後には、速度表が確認できるなど、何度もトライしたくなる内容となっています。

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ゴーグル内に表示される映像。右側には車内を確認できるサブディスプレイが備えられている。

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筐体側の2本のレバーも、実際のものを模した作り。映像と連動しているため、容易に操作が可能であった

 


●急滑降体験機「スキーロデオ」
体験料:700円(651バナコイン)
スキー板を模した可動型マシンをコントロールし、急滑降を体験できるスキーシュミレーター。雪山を再現しており、息を吐けば画面上でも白い息が出るようになっています。かなりの急角度から滑り降りるため、体感スピードは想像以上のもの。また、方向転換の判断が少しでも遅いとスキー板は雪に取られて挙動が重くなるため、思い通りに制御するのは至難の業です。筆者は崖に落ちたり岩にぶつかったりを繰り返した結果、制限時間内にゴールへと辿り着くことはありませんでした。

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自然の描写力も高く、スキーの爽快感を体全体で感じることのできるアクティビティ。

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スティック上のレバーを握り、スキー板上のデバイスを操る。板のエッジを立てると急旋回が可能となる。

 


●スポーツ走行体感マシン「リアルドライブ」
体験料:700円(651バナコイン)
6種あるVRアクティビティの中で、唯一VRゴーグルとヘッドフォンを使用しないのが「リアルドライブ」です。リアル挙動のカーレースアクションゲームで、半円型のドームスクリーンに映像が投影されています。前面のみならずサイドまでスクリーンがあるため、運転する感覚としてはかなり実車に近いものとなっていました。また、シートがGや衝撃を再現する構造となっており、カーブ時やブレーキ時の挙動がダイレクトに伝わってくるのが特徴と言えます。ゲーム性は非常に高く、順位に応じて獲得できるポイントに応じてパーツを購入でき、車体をグレードアップさせることが可能。VRアクティビティの中でも、リピーターを狙ったものと言えるでしょう。

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一回目の体験では2レース行うことができる。一度車体がコースを外れてしまうと、なかなか立て直すのが難しい。

 

 ちなみに、各アクティビティを体験するには年齢制限があり、13歳未満は利用できません。また、妊娠中の方、体調の悪い方、酒気帯びの方、心臓の悪い方、乗り物酔いの激しい方も、利用は不可となっています。

 


■VRコンテンツを、新たな体験として提供したい――タミヤ室長インタビュー
VRアクティビティ6種を体験したのち、今回の施設運営と設備の監修を手掛けたタミヤ室長(株式会社バンダイナムコエンターテインメント AM事業部企画開発1部プロデュース1課マネージャー:田宮幸春氏)にお話を伺いました。タミヤ室長は以前からアーケード向けのゲーム開発を手掛けており、その中でVR技術にも強い関心を寄せるようになったとのことです。
「もともと我々の事業部では、家では体験できない体感マシンやアトラクションの開発をずっと続けていました。例えばドームスクリーン筐体を採用したアーケードゲーム『ガンダム 戦場の絆』シリーズもそのひとつです。今回の施設を立ち上げた経緯としては、VRゴーグルの目覚ましい進化が大きいです。このタイミングなら、我々が持っている体感マシンのノウハウと組み合わせることで、これまでになかった体験を提供できるんじゃないかなと思いました」(タミヤ室長)
昨年夏~秋頃から本格的に施設開設に向けて動き出したタミヤ室長たちは、6種のアクティビティを急ピッチで開発。90fps、なおかつ180度~360度で映像を製作するためデータ量も膨大となり、開発機材を新しくした段階でフリーズするような事態も起きたとのことですが、なんとか開業に間に合わせることができたそうです。

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 「今回のビジネスはある程度実験的なところがあります。『高所恐怖SHOW』のような刺激的な体験を提供できるものと、『リアルドライブ』や『トレインマスター』のような何度でもトライして楽しめるもの、VRにはどちらの可能性もあると思っています。施設を運営する中で、お客さんが何を求めているかを探っていきたいですね。現状では、VRの体験をしてもらうのにはまだまだコストがかかりますし、運営においても専門的な知識が必要なんです。その中で、気楽に体験してもらえる最初のタッチポイントとしての役割を『VR ZONE』が担いたいと思っています」(タミヤ室長)
タミヤ室長が語るように、VR体験施設では、VR用のゴーグル/ヘッドフォンを管理するスタッフが必須であり、マシンのメンテナンスも莫大なコストが掛かってしまいます。
「我々が気をつけているのは、VR技術はゲームという枠にとらわれず、新しいエンターテインメントとして提案したいんですね。ゲームという名がつくと“ワンコインで楽しめるもの”をお客様が想像してしまうので、まずそういったカテゴリを一回リセットしたいと考えています。また、世界に先駆けて誕生したスポットですので、VRの価値をきっちりと提案して、ビジネスとして成立させるためにどのように運用するかを考えるのも我々の使命だと思っています」(タミヤ室長)
VR技術は、ネットワークゲームとのコラボレートや、アトラクションとしての展開、企業プロモーションの一環としての運用など、様々な展開に対応できるコンテンツと言えます。今回、最先端の体験が気軽に楽しめる『VR ZONE』の登場により、その体験の面白さや高い汎用性にスポットがあたり、技術の運用や発展が円滑に進むことが期待されます。

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タミヤ室長。白衣姿で各アクティビティを案内していた。

 
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■施設概要
 
店舗名 VR ZONE Project i Can
実施期間 2016年4月15日(金)~10月中旬
営業時間 10:00 〜 21:00
住所 東京都江東区青海 1-1-10ダイバーシティ東京プラザ3F
最寄駅 東京臨海新交通臨海線 (ゆりかもめ)「台場駅」より徒歩5分
東京臨海高速鉄道りんかい線「東京テレポート駅」より徒歩3分
電話番号 03-5579-6141
 
■利用制限
次のお客様はご利用いただけません。
13歳未満の方 心臓の悪い方  酒気を帯びた方
体調の悪い方 乗物に酔いやすい方  妊娠中の方
※自立歩行が出来ない方は一部体験できないVRアクティビティがございます。
※その他ご利用により悪化する恐れのある症状をお持ちの方はご利用をご遠慮ください。
(心臓疾患、めまい、閉所恐怖症、呼吸器系疾患、けいれん発作、妊娠中、騒音過敏症、暗所恐怖症、首・背中・腰の疾患、肌の弱い方、光過敏症発作)
 
■入場システム
※体験予約制(Webでの予約が必要。1ヶ月前から予約開始)
 
タイムテーブル
営業時間10:00~21:00 ※予告なく変更となる場合がございます。
開場時間
Opening Time 入場
Entrance 体験時間
Experience Time 退場
Exit
10:00 〜 11:30 5分 80分 5分
11:30 〜 13:00 5分 80分 5分
清掃時間 15分
13:15 〜 14:45 5分 80分 5分
14:45 〜 16:15 5分 80分 5分
清掃時間 15分
16:30 〜 18:00 5分 80分 5分
18:00 〜 19:30 5分 80分 5分
19:30 〜 21:00 5分 80分 5分
 
■利用料金
バナパスポートカード(300円)の購入、および体験料のチャージが必要です。
バナパスポートカード及びチャージした体験料(バナコイン)の返金、換金はできません。
〔体験料〕
 
①スキーロデオ 700円 (651バナコイン)
②リアルドライブ 700円 (651バナコイン)
③高所恐怖SHOW 1,000円 (930バナコイン)
④脱出病棟Ω 800円 (744バナコイン)
⑤トレインマイスター 700円 (651バナコイン)
⑥アーガイルシフト 700円 (651バナコイン)
※ 施設内チャージの場合
※ 利用料金・VRアクティビティ内容は予告なく変更する場合がございます。予めご了承ください。
体調がすぐれない場合には、VRアクティビティのご利用をご遠慮ください。
 
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取材・構成:公森直樹
編集プロダクション「メガロマニア」所属の編集者/ライター。ガンダムシリーズを中心に、アニメ系記事の編集・執筆を手掛ける。主な寄稿誌に隔月誌『Febri』(一迅社)など。